約 774,116 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1844.html
四月、季節は春。 春は世間一般ではお花見だ、歓迎会だなどと浮かれる季節となりがちだが 俺たち学生からしたらそれ以上に意識してしまうものがある。 そう、受験及び就職活動だ。 月日が立つのは早い。 去年までは浮かれていた俺たちSOS団(朝比奈さんを除いて)だが 今年から俺たちも三年生なのである。 俺は二年の時も低空飛行さながらのスレスレ具合だったため冷や冷やしたが無事進級した。 そして我等が天使朝比奈さんは無事東高近くの大学に受かり終わり次第 俺たちの部室に来てメイド兼お茶くみ係をしてくれている。 わざわざ来た上に何と律儀な事だ。爪の垢を煎じてどこかの団長さんに飲ませてやりたいね。 他のメンバーは言わずもがな皆余裕しゃくしゃくで進級した。あ~忌々しい。 しかし受験年だからと言って勉強休みなど団長が与えてくれるはずもなく 今日も今日とて鶏が毎日朝早くに鳴くように当然として部室に向かっている俺なのである。 俺は授業が終わるといつもの道を通りいつもの部室前で人間が外出する時に靴を履くように当然に 行わなければならない動作ノックをし、朝比奈さんの「は~い」と言うまるで天使のような いや、天使すら従えてしまいそうな可愛らしい挨拶を聞くと部室に入った。 浮かれるような天候の春なのだから開けてメイド服への着替えシーンを目撃しても 「すいません、うっかり」で済みそうだなと思いながらも そんな勇敢極まりない行動など出来ない俺を自分で呪いながらもね。 部室の中にはこれまた寒いと鳥肌が立つように当然として いつもの定位置に座り分厚いハードカバーを読んでいる長門を見た後 「あれ?ハルヒはまだ来ていないんですか?」と朝比奈さんに質問した。 ハルヒは授業が終わったと同時に教室を飛び出していったはずなのにと首をかしげていると 「涼宮さんなら先程玄関で先生と討論を繰り広げていらっしゃいましたよ」と 何故か後ろから答えが返って来た。俺は振り返りむかつくほどの爽やかスマイル男古泉を一瞥し 「討論?」と聞き返した。 「はい、討論でした。遠くから見かけただけなので何を話しているかまでは分かりませんでしたが 大層怒鳴っていましたよ。ちなみに今僕は閉鎖空間帰りです。」 お前の事などどうでもいいが、ハルヒが先生を相手にするなど珍しい事もあるもんだ。 嵐が起きなきゃいいけどな。 ま、何にせよ今だけは身体を休めておかないといけない。 その話を聞いたところによるといつあの団長が怒りながら此処にやって来るか分からないからな。 その後俺は朝比奈さんの入れてくれた何よりも美味なお茶をすすりつつ 古泉とアナログなゲームをしながら、時々長門を見るといったいつも通りの行動をとっていた。 あのハルヒが来るまではな。 その日のハルヒは荒れていた。 いつも以上の大蹴りでドアを蹴飛ばすと挨拶もせずズカズカと団長席に座り オドオドしている様も美しい朝比奈さんの入れたお茶をいつもの倍のスピードで飲み干しつつ パソコンを始めたかと思うとこう俺に絡んできた。 「何であんたはそんなに頭が悪いのよ!!」 WHAT?自慢じゃないがそんなの今に始まった話じゃないだろ? 「だからこそよ!!あんたなんか団始まって以来の落ちこぼれよ!!このままじゃ…」 このままじゃ? 「とにかく今日は解散!!そして家でちゃんと勉強すること!! いい?特にキョンは馬鹿なんだからしっかり勉強しなさいよね!!」 そんな団長の身勝手な解散宣言により帰らざるを得なくなった俺たちは家へ帰宅した。 普通学生ならば何かしら用事のあるものだがいつもSOS団の活動でスケジュールが 埋められた俺は何もすることがなく仕方なしに机に向かった。 「全くわからん」 この前デパートで何気なく買った問題集に取り組んだのだが十問目で壁に当たったのである。 その後数分うなったが分からん時は頭を休めるのが一番などという俺流ルールの元 ベッドに入りそのまますやすやと眠りの世界へ落ちてしまったのだった。 「…き…下さ…」 ん?何だ? 「起きて下さい」 目を開けると古泉が俺を覗き込み起こしていた。 顔を近づけるな、気持ち悪い。と言うより何でお前が俺の部屋にいる。 「まだ寝ぼけているようですね。此処はあなたの部屋ではありません。」 俺の部屋じゃないって?なら何処だ? 「周りを見れば分かるでしょう?」 あぁ、分かってはいたさ。だが認めたくなかったね。 また此処、閉鎖空間に来るなんてさ。しかもご丁寧に制服に着替えさせられて。 希望があるとすればSOS団の面子が揃っている事だな。 「そうですね。心強いばかりです。」 全くだ。しかし何故こんなところに俺たちはいるんだ? 「おそらく今日の涼宮ハルヒのストレスの元が原因」 やっぱりか。ならまたハルヒの奴を見つけなければならんようだ。 でもその前に、起きて下さい朝比奈さん。 「ふぇ?ななな、何でキョンくんが私の部屋にいるんですかぁ?」 先程俺も同じ事を言いましたよ。しかし朝比奈さんの反応の方が素晴らしかったですが。 「ってことは此処は…閉鎖空間…ですか?」 はい、間違いありません。長門とついでに古泉がそう言ってますから。 「そっかぁ~…やっぱり…部室での涼宮さんおかしかったし…」 確かにそうですね。でもまずは元の世界に戻るためにアイツを見つけないと。 「そうですねぇ…」 「闇雲に探しても見つからないでしょう。居そうな場所から探しませんか?」 居そうな場所ね。やっぱりあそこしかないだろ。 「部室。過去の同様の閉鎖空間の例でも此処での出現率が一番高い。」 だろうな。俺たちの集まる場所は此処か駅前か喫茶店くらいだからな。 見慣れたはずだが灰色だとやはり不気味な廊下を渡り部室前に行く。 途中で朝比奈さんが泣きそうになりながら抱きついてきた時理性を保てた俺を自画自賛するね。 「いいですか?開けますよ?」 そう言うと古泉が先頭でドアを開けそれに続き俺、長門、朝比奈さんと続いた。 やはり居た。 ハルヒはしばらく此方に気づかなかったが俺たちの姿を見るなり いきなり100Wの笑顔になり「遊びましょう!!」と叫んだ。 それを聞くと朝比奈さんは安心したように笑い、古泉はやれやれと言うような顔をし、 長門はやっぱり無表情だった。しかし俺は笑えなかった。 いつもと何か違う感じがした。 何がだ?何がいつもと違う?遊びましょう? そうか…ハルヒは… 「何やってるのよキョン!!早く遊ぶのよ!!」 ハルヒ 「何よ?」 何を隠してる? 「え?」 お前はいつもと違う。俺たちに何を隠してるんだ? 「何…言ってるのよキョン。いつもと同じよ…」 いや、違うね。俺の知っている涼宮ハルヒは遊ぼうなんて言わない。 「いつも遊んでるじゃない…」 そうじゃない。ハルヒがいつも俺たちとするのは 宇宙人、未来人、異世界人、超能力者探しかSOS団の名前を広めることだ。 決して遊ぼうなどとは言わない。 「それは…」 「それは……あんたが悪いのよキョン!!」 何だって?俺が悪い? 「そうよ!!あんたの頭が悪いから悪いの!!」 何言ってんだ。そんなの前から「あんたの頭が悪いから皆同じ大学に入れなさそうなの!!」 は? 「先生に聞いてみたのよ。そうしたら私達はともかくあんただけは… あんただけは今のままじゃ危ないって…何とかしなさいって掴みかかっても無駄だった… なのにあんたは平然としてる!!嫌じゃないの?離れたらSOS団は解散になるのよ?」 俺のために… 「あんたのためだけじゃない。この団のためよ…」 でもな、ハルヒ。 「…何よ?」 いつからこの団はスクールライフを面白くするための涼宮ハルヒの団になったんだ? 「は?」 世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団じゃなかったのか? 「何がいいたいのよ…」 「キョンくん…」朝比奈さんが泣きそうなハルヒの近くに寄る。 しかし構わず俺は続ける。 言っちまうのか俺?やれやれと散々溜息をしていたのにそれを続けることになる言葉を言うのか? 言っちまうんだな?いいぜ。後悔はしないでくれよ未来の俺。 「SOS団は離れてもこの世の全ての不思議を解き明かすまで永久不滅なんだろ?」 ハルヒの、古泉の、朝比奈さんの、長門でさえも少しだが驚いた顔をした。 もちろんこの言葉も忘れないけどな。 「俺ももちろんこれから同じ大学に行ける様努力するさ。もちろんな。」 「……ふん…分かってきたみたいじゃない!!いい?さっきの私の言葉は忘れなさい!! 今言ったとおりSOS団はこの世の全てを解き明かすまで永久不滅なんだからね!!」 AM4:00 目覚めると部屋に居た。 全く俺としたことがハルヒに向かってSOS団永久不滅宣言しちまうとはね。 その後寝れたかって?寝れるわけないだろ? 眠い。全然寝れなかったんだ。当たり前か。 しかし助かる事に1時間目は自習って言ってたからな。居眠りタイムだ。 一筋の光を元に疲れた体に更に追い討ちをかける坂をこれから1年も上り続けるのかと睨みつつ 学校に到着した俺に更に追い討ちをかける一言を放ったのは誰だと思う? そう、答えは昨日と打って変わってテンションの高い涼宮ハルヒだ。 「いい?今日の1時間目は何と自習よ!!だからあたしが勉強を教えてあげるわ!!」 昨日の勉強発言撤回していい?なんて夢だと思っているハルヒに言える筈もなく どこぞの先生より教えるのが上手いんだから!!と豪語するハルヒに 眠い頭を酷使することを余儀なくされた。永久不滅宣言をして何だがこれくらい言わせてくれ。 「やれやれ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1676.html
【注意事項】 このSSは『Fate stay/night』というPCゲームとのクロスになってます。 基本的には設定を借りただけで、ハルヒのキャラ以外は登場しません。 涼宮ハルヒの聖杯~第1章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第2章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第3章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第4章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第5章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第6章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第7章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第8章~ 涼宮ハルヒの聖杯~第9章~
https://w.atwiki.jp/haruhi-2ch/pages/59.html
もしかして 涼宮ハルヒの驚愕(前) 涼宮ハルヒの驚愕(後)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4835.html
ここはどこ くらい あたりでぼんやりひかるじめん このくうかんをおおうてつぼう まるでおりのなか そとはやみ だして このせかいからわたしをだして! オレンジ色の冬空の下を俺たち団員は下校している。 今日も不思議が見つからないことを悩みとする団長はとなりであひる口をしていた。 ハルヒ「あーもうつまんない!たしかに平和もいいわよ?でもね刺激がなさすぎなのよ!」 おまえが平和を肯定するなんて日本の首相が戦争を肯定するようなものだぜ。よろしい、ならば戦争だ。 ハルヒ「なによそれ。よしキョン!なにか面白いことを10秒でしなさい、はい!」 お前にはこれで十分だ。 キョン「布団がふっとんだ」 ハルヒ「あんたねぇ・・」 みくる「さすがにそれは・・」 長門「ユニーク」 古泉「まあまあ彼だって必死なんですよ」 ハルヒは俺を徹底的に罵倒し、他団員3名は蔑みの目で俺を見ている。 とりあえずハルヒを止めるために俺はハルヒの頭をなでた。 ハルヒ「なによ!」 キョン「せっかくのかわいい顔が台なしだぞ」 途端ハルヒは顔を真っ赤にし ハルヒ「なっ何言ってんのよ!もう今のでストレス爆発よ!」 バカキョン、と叫び走り去った。 古泉「あれは照れてるだけです。閉鎖空間は発生してません」 いらん説明をどうも。 女心で遊ばないでください、と朝比奈さんに涙目で説教されてしまった。反省しよう。 俺は帰宅し、夕食を食べ宿題を済ませ就寝する。うーんなんて学生らしい生活だ。 またここにきた あいかわらずくらい おりのなかのじめんはあかるい だしてよ もうこんなところにいたくない あたしは鉄棒に蹴りを入れつづけた。 むなしく響く金属音。 「静まりなさい」 その女の声の方向、真上を見た。暗闇しかない。 「バタシはあなたの望みを叶える神です」 この声は何を言ってるのだろう。 「今は信じられないだろうね。まずこの空間のことですが、ここは箱庭です」 名称なんてどうでもいい。 「ここは私とキャナタが話すための空間。私を信用してもらうため、あなたの願いを一つ叶えましょう」 占い師みたいなことを言われた。 「さあ」 角砂糖より甘い誘い。様子見をしよう。だがどうせ叶うなら本当の願いがいい。 キョンという男の子と恋人になって一緒に生きたい、そう伝えた。 神「わかりました。では目をつぶり強く願ってください」 あたしはそれに従う。すると意識がなくなる感覚に襲われた。 俺は凍えるような空気に堪えながら登校した。 俺が席に着くと同時に背中に衝撃が走った。 ハルヒ「おはよーキョン!」 キョン「おまえは普通に挨拶できんのか」 ハルヒ「あっごめん」 ハルヒが後ろから俺の背中をバンッと叩いたのだ。にしてもハルヒが素直に謝るとは珍しい。てなに頬ずりしてんだ、離れろ。 昼休みに俺の疑問はさらに積もった。 ハルヒ「キョン、お弁当一緒に食べよ!」 キョン「俺は食堂へ行く」 ハルヒ「なぁに冗談言ってんのよ!あたしがキョンの分も作る、て約束したじゃない!」 When you said? 俺が答えに詰まっていると、谷口が横からあきれた顔をしながら 谷口「痴話喧嘩かよ。おまえはいいよな。彼女持ちになりやがって」 ハルヒ「アホの谷口は黙りなさい!ほらキョンの好物よ」 谷口の発言の意味がわからない。俺はハルヒと机を向かう合わせにし、弁当をもらった。ハルヒが「あ~ん」してきたので全力で断った。 放課後ハルヒは掃除当番で遅れるそうだ。俺はこの疑問を解消するべく一人で部室に向かった。 部室の扉を開けると、朝比奈さんとは違うマスコットがいつものように本を読んでいた。 キョン「よっ長門。他の人はまだか」 沈黙、それすなわち肯定。学習済みである。本題に入ることにした。 キョン「ハルヒや周りの様子が変だ。何か知らないか?」 長門「周りの人間の記憶を改変したのは私」 キョン「なんだと?」 長門「涼宮ハルヒの記憶に何者かが干渉したから」 長門は淡々と、だが焦りの色をわずかにこめて話した。 深夜にハルヒの記憶が改変され、俺と恋人であるとハルヒが思っていること。記憶の修復は不可能で、仕方なく団員以外の周りの記憶を改変し混乱を避けたこと。 長門「犯人は不明。確実に危険要素になる」 朝比奈「長門さん!未来と連絡がつきません!」 古泉「機関の方はむしろ彼女の精神が安定して良かった、という意見が多いです。ただその犯人については調査中です」 いつのまにかニヤケスマイルとメイドさんがいた。 長門「現在情報統合思念体の主流派は慌てている。世界の創造主の記憶改変などもってのほか」 キョン「ハルヒの記憶ではいつから付き合ってるんだ?」 長門「昨日」 なんだって? キョン「ハルヒに記憶の矛盾を伝えれば、記憶が戻るんじゃないか?」 古泉「だめです。彼女の幸せな『真実』は不幸な『現実』を受け入れないでしょう」 長門「あなたはしばらく彼女と付き合ってるフリをして」 ハルヒ「やっほーみんな!」 危ないな、話を聞かれるところだった。 ハルヒは手に派手なゴスロリ服を持っていた。ハルヒが朝比奈さんにヘビのように近づく+朝比奈さんが助けを求める=ハルヒの前で朝比奈が俺に正面からしがみつく。方程式のような動きに感動した! 俺はハルヒを止め、古泉と将棋をした。長門は本を読んで・・・ページが進んでないな。朝比奈さんは椅子に腰掛け落ち込んでいた。そしてハルヒは ハルヒ「そこに歩置けばいいんじゃない?」 キョン「いやここは桂馬で王手角取りだ」 俺の頭に首を乗せて将棋を見ていた。むむさっきから首に当たるフクラミはまさか。 ハルヒ「もうキョンの変態」 何赤くなってんだよ。俺まで興奮するだろ。 長門が本を閉じる音が聞こえた。活動終了。 下校中ハルヒは俺の腕を組んで歩いていた。 ハルヒ「ねぇ今日キョンの家行っていい?まだあんた・・あなたの家族に挨拶してないのよ」 あいにく今日は急ぎの用事がある。 キョン「今日は無理だ。近いうちにな」 ハルヒ「じゃあ明後日ね」 俺は交差点でハルヒ達と別れると、今後のことを考えた。このまま付き合っても悪くはないが、捏造された恋だ。俺は許さない。 「キョン」 後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたので振り返った。そこには懐かしい人がいた。 キョン「久しぶりだな佐々木」 佐々木「ボクと会わなくなって1年、キョンは男らしくなったな。今日は大変だったろう」 キョン「俺にも大変な時はあるさ」 佐々木よ、あいかわらずその笑い方はやめようぜ。クックッなんて鳥じゃあるまいし。 キョン「あいにく俺はすぐ帰る必要があるから今日は失礼する」 また会った時茶でも飲もう、そう言い俺は家に走った。佐々木が寂しそうに見えた気がするが、夕日のせいだろう。 ここはいつものばしょ じめんはぼーっとひかる おりのようなばしょ きのうもきた 「あなたの願いを叶えましたよ」 願い? 「あなたは初めてここに来たとき、キョンという男と恋人になりたい、と願いました。それを叶えました。」 よく覚えていないが、彼女は勇気をくれたのだろう。ありがとう、と返事をした。 「この箱庭はいいだろう。あなた以外誰もいないんですよ」 寂しい、素直な気持ちを伝えた。 「心配しないで、ここは仮の宿。あなたがキョンと永遠に幸せになる場所、『楽園』が本当のゴール」 そんな場所が本当にあるのだろうか。だがあたしは見えぬ彼女を信用することにした。 「そしてその楽園へ導いてくれるのが『はこぶね』」 はこぶね? 「『箱舟』にあなたの願いを託せば、必ず貴女は幸せになれます」 そう言われた瞬間、あたしは意識を失った。 朝俺は携帯のバイブで目を覚ました。時計を見ると、まだ6時30分である。 古泉「長門さんから伝言を預かりました」 キョン「なんだ」 古泉「『彼女を否定する言動は避けて。嫌な予感がする。』とのことです」 キョン「また何かあったのか?」 古泉「再び涼宮さんの記憶が改変されたようです」 どのように? 古泉「長門さんにもわからないそうです。ただ記憶改変が行われた、と察知するのがやっとらしいです」 キョン「せめて現在の行動ぐらいはわからないか?」 古泉「たった今彼女が登校した、と外で監視している仲間から報告がありました。」 キョン「こんな朝早くにか?」 古泉「おそらくあなたを迎えるためだと思います」 なるほどね、恋人か。 古泉「ただ少し妙な点が・・・いえ何でもないです、失礼しました」 電話が切れた。 俺が珍しくゆっくりと朝飯を食べていると、インターンホンが鳴った。 妹が確認してきたところ、やはりハルヒだった。あと一分で来ないと死刑、という伝言を受けた。 今日は雨か、冷たいな。 ハルヒ「あたしが家を出たころにはすでに降ってたわ」 俺はハルヒに腕を組まれながら登校中だ。ん? キョン「ハルヒ。ほっぺに赤いのが付いてるぞ」 ハルヒ「朝のイチゴジャムね、これだから朝のパンは嫌なのよ」 ハルヒは笑いながらハンカチで汚れをぬぐった。ハンカチは少し赤く汚れた。 教室に着くとハルヒは少し顔を曇らせた。 ハルヒ「あのね、実はあたしの父さんと母さんがキョンと付き合うのに反対してるの」 なんと重たい話だろう。俺はできる限り安心させることにした。 キョン「じゃあ俺が直接親を説得しよう。口ゲンカなら負けないぜ」 ハルヒ「口ゲンカはダメ。でもありがとう」 ハルヒは今まで見せたことのない、優しい笑みを浮かべていた。ておい教室で抱きつかないでくれ。 昼休み、相変わらず止まない雨にうんざりしながらハルヒの弁当を食べた。携帯電話のバイブが鳴り始めた、ハルヒに失礼だから無視しよう。 ハルヒ「あっキョン。ちょっと顔を動かさないで」 ハルヒはハンカチを持つ手を俺の顔に近づけ、俺の頬をぬぐった。 なんだソースが付いてたのか、と納得しハルヒにたたまれるハンカチを見た。やや黒い。 弁当を食べ終わるころにはバイブは止まっていた。 授業中に俺は着信履歴を確認すると、古泉からだった。 五時限目終了後ハルヒはどこかに行った。途端電話が鳴った。 キョン「どうした古」 古泉「なぜはやく出ないんだ!こっちは大変なことになってたんだぞ!!」 古泉の怒声を聞くとは思わなかった。 キョン「落ち着け古泉、何があったのか話せ」 古泉「すいません」 古泉は息を整えて言った。 古泉「落ち着いて聞いてください、実は」 あたしは今みくるちゃんと文芸部室にいる。メールでさっき呼び出したのだ。もちろん昨日のあれのことで。 ハルヒ「みくるちゃん、あたしがキョンと付き合ってるのは知ってるわよね?」 みくる「はっはい!」 怯えている。当然か。 ハルヒ「にもかかわらず昨日キョンに抱きついたの!?」 あたしはみくるちゃんを壁に追い詰めた。 ハルヒ「ふざけないで!いい?今度から誘惑しないでね!」 みくる「ぐっはっはい・・」 ハルヒ「わかればよろしい、もう教室に帰っていいわよ」 みくるちゃんは腰が抜けたのかその場に尻餅をついた。あたしは満足して教室に戻った。 キョン「なんだと!?」 古泉「ですから落ち着いてください」 キョン「落ち着く方が無理だろ!」 ハルヒの家族が皆殺しにされていた・・だと。 古泉「異変に気づいたきっかけは干しっぱなしの洗濯物です。今朝からずっと雨なのに、家の中に取り入れる様子がなかったのです」 おかしいということで機関の一人が近所の人のフリをし、訪問した。が返事はなかったらしい。 古泉「そこで監視員全員で家に強行突破しました。そして」 キョン「死んだ家族を発見したのか」 古泉「ただ殺され方が尋常じゃありません。家族は寝ている間に包丁で襲われたんでしょう。首はえぐられ片目は潰されていたそうです。」 とても僕たちが見れる光景じゃないそうです、と話した。 キョン「犯人はまさか」 古泉「涼宮さんでしょう、深夜から家の外で監視されてた状況ですから」 キョン「そういや朝ハルヒの顔に赤い汚れのが付いてたんだ。ハンカチでぬぐってしばらくしたら黒くなってた」 古泉「それは血ですね」 俺は頭が真っ白になった。 6時限開始時にハルヒは戻ってきた。俺はハルヒがこわい。 放課後俺とハルヒは部室に向かった。ハルヒは笑って話しかけてくる。 部室のドアを開けると、そこには長門が立っていた。何かを見ている? その方向を見るとそこには キョン「朝比奈さん!!」 ハルヒ「えっあっみくるちゃん!!」 そこには左胸からナイフが生え、目を見開いた朝比奈さんが倒れていた。 ハルヒがその場で倒れた、気絶したのか。俺はハルヒを抱き抱えた。俺は確信した、こんな奴が殺人するわけないと。 ハルヒに気づかれぬよう機関の人が来て隠蔽をした。残された俺たち団員4人は、さらにひどくなった雨の中を下校した。ハルヒは俺に泣きついている。 ハルヒ「ねえキョン、明日あなたの家に行くからね」 そうかい。 ふと俺は腕を引っ張られた。長門だ。 長門「これ読んで」 長門がブックカバーをかけられた本を差し出した、ハルヒの目の前で。 ハルヒは「病気になった」家族を看病する、と言い早々に俺たちと別れた。 古泉「あなたは朝比奈さんが亡くなられた件についてどう思いますか」 おまえ不謹慎という言葉を知っているか? 古泉「偽善者になるところではないです。現状分析が必要です」 長門「同意する。朝比奈みくるはおよそ6時限の授業直前に殺された。彼女が怪しい」 キョン「待て。発見時のハルヒのあの反応はとても殺した人間とは思えない」 俺はハルヒを信じた。家族の死も別の犯人がいるはずだ。 古泉「その件なんですが、長門さん宅に行きませんか?機関の仲間が集まってます」 長門の家には機関の人がたくさんいた。 森「久しぶりね」 古泉「今はあまり余裕がありません。やるべきことを済ませましょう。新川さん、モニターを」 森「挨拶ぐらいいいじゃない」 森さんは微笑んだ、目は笑っていないが。 キョン「モニターで何を見るんだ」 長門「涼宮ハルヒの家での行動。今彼女は買い物を済ませて帰宅した」 古泉「家中に監視カメラがあり、音声も拾えます」 亡くなられた家族は? 古泉「そのままにしてあります。」 森「状況が変われば彼女は混乱するでしょう」 新川「静かに。彼女が料理を作り始めた」 どれどれ。あれはおかゆ?だが誰が食べるんだろう。ハルヒは鼻歌を歌いながらおかゆを作り終えた。 ハルヒはそのおかゆを二枚の皿に移し、それらを持って階段を上がる。 古泉「おかしいですね、上には家族の方々がいらっしゃる寝室しかないはずですが」 ハルヒは寝室に入った。寝室は辺りに血が飛び、遺体がベッドで横になっていた。俺は気分が悪くなった。 次の光景を見て、俺はハルヒへの信用を放棄せざるをえなくなった。 ハルヒ「はいお父さん。おかゆ作ってきたよ。はいあーん、もうこぼしちゃだめよ」 ハルヒは「それ」のそばに座り、スプーンでおかゆを「それ」の口に流した。 ハルヒ「おいしい?良かった~。それでねお父さん。キョンのことだけど・・・えっいいの?ありがとう!」 ハルヒは一人で喜び、「それ」の首に手をまわしている。顔や服が赤黒く汚れていく。「それ」の首から赤白い液体、おかゆが漏れてきた。 古泉「彼女の精神が危ないです。幻覚を見ています」 新川「記憶改変の影響ですか?」 長門「こんなバグはありえない」 森さんは泣いていた。俺は頭が真っ白である。 ハルヒは別の「それ」に食事を与え始めた。 ハルヒは食器を片付けると、風呂に入った。俺は何も考えられず、ただモニターを見た。 ハルヒは歌を言っているようだ。 明日はキョンの家へご挨拶~みくるちゃんには~忠告しておいた~ 『忠告』だと!? 俺は床を殴りつけた。さらに歌は続く。 そういや有希が~本を渡してた~もしかして~私のキョンにちょっかいを~少し念おしておこ~ 機関と俺は一斉に長門を見た。 つぎはながとがころされる、全員がそう思ったはずだ。 長門「大丈夫、私は死なない」 だいじょうぶ、と長門はまた言った。俺たちを安心させるように。 今日はもう遅い、という新川さんの忠告に従い俺と古泉は雨の中帰ることにした。結果は後に聞くことになった。 キョン「ハルヒがああなったの俺のせいなのかな」 沈黙。つまり肯定か。ようやく古泉は口を開いた。 古泉「涼宮さんが家族を殺害した動機に心当たりはありませんか?」 俺は昼間ハルヒが話したことを話した。 古泉「そうですか。納得ですが、恋人のために人を殺すことを僕は理解できません」 そして今の僕たちにできることは何もないのです、と古泉は苦々しく言った。 俺は帰宅した。夕飯を食べる気もしない俺は風呂に入る。頬を流れる液体はお湯か涙か。 部屋に戻り、俺は長門から借りた本をバッグから探した。本を手にとると1枚の折られたB5の紙が落ちた。本に挟まってたのだろう。 俺は本を机の隅に置き、ベッドに仰向けになりそれを読みはじめる。 これを読むころには私はいないだろう。今の私は主流派を何者かに潰されている。 今情報統合思念体は急進派でのみ構成されていることがわかっている。彼らが今何をしているかは不明。 私には一つの仮説がある。それは急進派が涼宮ハルヒを操作していること。 彼らは記憶を改変し彼女を望むままにあやつる気かも。だがこれはどの派閥でも危険という意見で一致したはず。何かの圧力か? 私は彼女に殺されるだろう。実は一度目の改変後彼女の力はなぜかなくなっている。だから彼女をあやつる者が補助し私を殺しにくるはず。 私個人の能力を駆使した結果が、この本のメッセージ。 できればあなたは生きて欲しい。 俺は長門の家に電話したが、誰も出ない。 今度は古泉に電話した。よし出た。 キョン「今すぐ長門の家へ来い!説明は後だ!!」 俺は電話を切り着替え、雨の中陸上に出るぐらいの勢いで傘をさして走った。 20分後、マンション前で古泉と落ち合った。 古泉「長門さんの家にいる仲間と連絡がとれません」 俺たちはマンションの管理人に事情を話し、急いで管理人と長門の家に行く。途中赤い汚れをあちこちで見た。 玄関の扉を開けた。 機関の人たちがあちこちで倒れていた。出血してないが、床にたくさん血の足跡があった。 止める古泉を無視し、俺は足跡をたどりベランダへ出た。 俺は瞬時に力が抜けた。追いついた古泉が手で俺の目を隠そうとしたが、それよりも前に「それ」を見てしまった。 血塗レデ横タエル無口ナ少女ヲ 俺はその場で泣きくずれた。俺は長門も守れなかった。 後は機関が処理をした。長門は首をずたずたにされ、左胸に深々と包丁が刺さってたらしい。 古泉「長門さんが突然倒れると、次々に仲間が倒れたそうです」 俺を含む機関は今後について話した。 まず俺がここでハルヒに電話し様子を見ることになった。 俺はハルヒに電話をかけた。携帯が震えている、いや俺の手が震えているのだ。 10秒待つと、元気な声が応対した。 ハルヒ「珍しいわね、どうしたの?」 キョン「ああ今何してるか気になってな」 ハルヒ「なにキョンまた宿題教えて、て言う気じゃないでしょうね?まあいいわ、さっきね」 長門の家に行き、私たちの恋愛の邪魔をしないよう念を押した。そう解釈できることを言っていた。 俺は携帯電話を壊そうとしたが、古泉が俺をなだめてくれたおかげで壊さずに済んだ。 明日の弁当はお母さんに教えてもらった愛妻弁当よ、と言い放って切られた。 新川「古泉、今連絡があった。TFEIの大半が消失したのを確認し終わった」 古泉「なんですって?」 キョン「その残ったTFEIは急進派じゃないですか?」 新川「なぜ知ってるんだね?」 俺は長門から借りた本に挟まっていた紙の内容を説明した。 古泉「なるほど。この事件の犯人は急進派ですか」 森「いえ話を聞く限り、急進派も何かの圧力を受けやむを得ず行動した、という可能性があります」 新川「とにかく残ったTFEIを監視していく必要がある。森、今すぐ手配を」 森「わかりました」 新川「君たちはもう休みなさい。あまりにもつらい体験をし続けたろう」 再び俺と古泉は帰路につく。互いに話す気力がない。 家に着くと、玄関で母さんが待っていた。遅くに出かけた俺に説教しようとしたのだろう。だが俺の目を見るなり黙ってしまった。俺は何も言わず部屋に戻り睡眠をとった。止まらぬ涙を枕に染み込ませて。 またはこにわにきた わたしのこいをたすけるかみよ はやくわたしときょんをはこぶねにのせて 「調子はどうだい?」 みくるちゃんや有希には忠告した。親の説得は成功した。もう私とキョンの恋愛を邪魔する者はいないはず。 「偽りの記憶はいいものだろう」 偽り? 「何でもない。私は箱舟へ乗せる準備をしている。あなたたちを乗せる時が来たら私が迎えにいく」 私はまた意識を失った。 その直前にかすかに聞こえた声。 もうおまえらはようずみだから 俺の寝起きは最悪だった。枕はぐしょぐしょに濡れ、目は痛む。 顔を洗おうと部屋のドアを開けると、枕元の携帯電話が鳴った。 古泉「急進派が突然消えました」 キョン「え?」 古泉「正確には情報統合思念体と全てのTFEIが姿を消しました。正直何が起きているのかお手上げです」 キョン「ハルヒは?」 沈黙が訪れた。 古泉「残念ながら記憶は戻らず、幻覚もそのままです」 キョン「そうか」 古泉「ところであなたは『箱舟』を知ってますか?」 ノアの方舟か? 古泉「そうです。先程から彼女は『キョンと箱舟に』と何度も口にしているそうです」 キョン「どういうことだ?」 少しのためらい。 古泉「わかりません。『箱舟』という名の思い出の品で何かするのだと思います」 なにをするんだよ。 古泉「いいですか?彼女を嫌ってはいけません」 絶対にですよ、と古泉は言い電話を切った。残念ながら俺はハルヒのことを考えるだけで、手が震えた。 登校中、空には俺を励ますように輝かしい太陽がいた。あいにくとなりで「恐怖」が俺の腕を組んで笑っているため効力は薄い。 ハルヒ「どーしたの?なんか顔色悪いけど」 おまえのせいだよ キョン「妹が朝からだだこねて大変だったんだよ」 ハルヒ「ふーん、まあいいわ。今日は念願のキョンの家に行けるのね!」 冗談じゃない!おまえは俺の家族まで・・・クッ! キョン「すまん。家族と法事に出かけることになっていたんだ」 なにをそんな悲痛な顔をしてんだ。俺が悪いみたいじゃないか。 ハルヒ「だったら私も行くわ!」 キョン「だめだ」 やだやだ、と俺の袖にこの女は涙目でしがみついた。 今のこいつは力を失ってるんだよな。なら何を言っても大丈夫だろう。 キョン「わがまま言うなら別れよう」 ハルヒ「我慢すればいいんでしょ!そのかわり今度あたしと一緒にどこへでも行こうねキョン!」 はいはい、と返事をしておいた。どこへ行こうというのかね。 教室に着くまでの間こいつは必死に俺に話しかけてきた。ご機嫌とりにしか見えない。 自分の席に着くと、谷口が俺の方に寄ってきた。 谷口「よおキョン。おまえが本気だったとは思わなかったぜ」 何の話だ? 谷口「朝から涼宮と登校なんておまえらデキてんじゃねぇか?」 ちょっと待て ハルヒ「私とキョンはすでに恋人よ!」 谷口「ほらキョン、涼宮はすっかりその気で」 話を中断し、谷口に問う。 キョン「今の俺とハルヒの関係を本当はどう見える?」 谷口「何を今さら」 いつもの女王と奴隷にしか見えないぜ、そう谷口は返答した。 谷口「そんなに涼宮を気にす」 俺は9組へ向かい、ドアを乱暴に開けた。教室を見ると古泉は席に着いていた、笑顔の仮面をつけて。 俺が何かいう前に古泉は言った。 古泉「今ホームルーム中です。あとで理由を聞きましょう」 やっちまった。クラス全員で俺を白い目で見るな。 昼休み。弁当を無視し教室を出ると古泉が待っていた。 今俺たちは食堂の柱に並んで立っている。俺は古泉に周りの反応を話した。 古泉「つまり周囲の人の記憶が改変前の世界に戻っている、ということですね」 深刻な顔をする古泉って少し怖いな。 古泉「涼宮さんは知ってのとおり、あなたを溺愛してます」 これはまずいですよ、と古泉は顔を近づけて言った。離れろ。 古泉「これは失礼。ですがいいですか?神の力のない彼女は一般人です。もしあなたが」 自分の大切な思い出と周りの記憶が正反対に食い違ってたらどんな心境になりますか、と古泉はまじめな顔で言った。 キョン「生きてる気がしないだろうな、恋愛の思い出ならなおさら」 古泉「今はあなたが恋人として振る舞っているから、彼女はまだ付き合ってると思ってるでしょう。この状況は危ないです」 この腐った世界からあなたと逃げよう、と考えかねないからです。 ハルヒへの恐怖がさらに積もる。この世界のどこに逃げようというのだ。 古泉「急進派の件ですが、彼らと何度も接触していた人物がいたことがわかりました。特定はできませんでしたが」 長門やあいつの家族はあのあとどうしたんだ? 古泉「コトが収まるまで放置してます。警察へは通報しません。長門さんは欠席、ということになってます」 急に学校の外からピシャーンという漫画らしい音が聞こえてきた。おいおい暗いし大雨じゃねぇか。傘持ってないぞ。 昼休み終了の鐘が聞こえたので俺たちは教室に戻った。わめく女を無視し席に着いた。 放課後文芸部室が使えないのでしばらく団活動は解散する、とこいつは俺と古泉に宣言した。 傘を忘れた俺は下駄箱で呆けていた。すると後ろから ハルヒ「傘忘れたんなら入る?」 俺たちは薄暗い道路を手をつないで傘をさし歩いている。本当なら即刻おことわりなのだが、傘がないので仕方がない。 ハルヒ「ここのところ難しい顔するようになったわね」 誰のせいだよ キョン「まあな、ちょっと厄介事をかかえてね」 ハルヒ「ちゃんとあたしに相談しなさいよね。何のための彼女だと思ってるのよ」 ハルヒが俺に寄り添う。今のこいつは俺に対してなら優しくてかわいい少女なんだ。たしかにその優しさはうれしい。 俺はハルヒと正式に付き合おうか、と考え始めた。こいつを放っておけない。 ハルヒ「にしてもなんで今日文芸部室が使えなかったんだろ。有希も休みだし」 途端俺の目に凄惨な光景がよみがえった。 オマエノセイダロ ハルヒ「きゃっ!!」 俺はこの女を傘ごと突き飛ばした。女は道路に尻餅をついているがどうでもいい。 キョン「おまえが朝比奈さんや長門を殺したんだろ!!」 ハルヒ「なっなに言ってんのよ!殺したって何よ!!」 キョン「おまえが家族を殺したのも知ってんだよ!!!」 ハルヒ「冗談言わないで!!昨日も一昨日も家族と話してたわ!!そうよ、家族がみんな病気になっちゃったからあたしが看病したのよ!!なんで死ななきゃいけないのよ!!」 俺たちを黒い沈黙が渦巻く。互いに雨を大量に浴びている。 ハルヒは泣き始めた。 そのナミダはナニに対するナミダだ? 沈黙を破ったのはハルヒだ。 ハルヒ「ねぇ?なぜ変わってしまったの?あんなに愛し合ってたのに!!私たち中学からずっと一緒だったじゃない!!!」 はっ? コイツのキオクはドコまでイジラレテンダ? キョン「ありえねぇよ!!おまえは東中学だろ!!おれとは学校すらちげえよ!!おれたちは会ってもいないんだよおおおぉ!!!」 ハルヒは自分の口を両手で抑え、どこかに走りさってしまった。あとには傘と荷物、そして俺が残された。 途端に後悔の念で満たされた。悪いのは黒幕なのに、俺はハルヒを傷つけてしまった。 時間が経つのも忘れてその場に立ち尽くしていると、携帯電話が鳴った。古泉か。雨の中だが応答することにした。 古泉「今すぐ逃げろ!!!」 キョン「えっ?」 お ま た せ 携帯電話片手に後ろを振り向くと、そこには「ハルヒの形をした化け物」がワラっていた。 はるひ「今日約束したよ、ドコにでも一緒にイくって。ほら」 い こ う 「それ」は右手を振りかざし、俺の携帯電話をはたき落とした。 俺は右手に痛みを覚えた。右手の手の平いっぱいに広がる切り傷。 なんでそんな凍りついた笑顔をしているんだ キョン「なにをもってんだおまえ!?」 はるひ「『出かける』のに必要な道具よ。私たちを楽園に連れていく、ね?」 楽園ってナニ? 「それ」の右手を見ると、この暗い雨にもかかわらずよく見えるナイフ。 「それ」がさらに一閃し、俺の首をやや深く切りつけた。痛みを我慢し逃げようとする俺に「それ」は俺の左胸にナイフを突き刺す。俺は道路に横たわった。頭がぼーっとしてきた。 はるひ「そこへ行けば私たちは永遠に愛しあえるわ」 ソンナニシアワセナトコロナノカ はるひ「この『アーク』で先に行ってて。『アーク』っていうのは『箱舟』のことだって、さっき聞いたわ」 ホントウハナ、オレハアッタトキカラ はるひ「じゃあまたあとでね、アナタ。ウフフフフフフ」 ハルヒノコトスキダッタンダゼ 首元を切り裂く音、高らかに笑う声が聞こえた。 ここははこにわ なぜここにいるのわたし たしかにあーくでらくえんへいったはずなのに 暗闇から女のすすり泣く声が聞こえる 「おまえはボクのキョンを殺した」 ハルヒ「待ってよ!『ボクの』ってどういうことよ!?」 「おまえはさっきボクの言ったことに逆らい、キョンを殺した!」 ハルヒ「なんであんたにキョンを連れてってもらわなきゃ行けないの!?あたしじゃダメなの!?」 「あとはおまえが死ねば終わりだったに!!」 ツカエナイヤツ、たしかにそう聞こえた。違う、こいつは救いの神なんかじゃない。 「おまえにもう用はない。ボクの力も使い切る。おまえは一生『楽園』に」 堕 ち ろ 途端、光っていた地面が崩れ去った。私は浮遊感と闇に包まれる。 ここが「ラクエン」? コエを出しても何もミミに入らない。 私はキョンを「ラクエン」へ連れていったの? ゴ メ ン ネ 浮遊感と闇は続く、いつまでも。 ボクは昔からキョンのことが好きだった。彼とは違う学校になって以来全く会っていなかった。 だが最近になって好機が訪れた。情報統合思念体とかいう意識体の通信機代わりの人間が現れ、ボクにいろいろ話してくれた。 例えばボクに秘められた力。例えばボクより強大な力をもつ「ハルヒ」という人間。例えば彼女はキョンに思いを寄せていること。 急進派はハルヒの変化を観察したいので協力してほしい、と依頼した。ボクはこれを利用するため、必要となりそうな能力をボクに付与すること・主導権をボクが握ることを条件に引き受けた。 まずボクは急進派に指示し、寝ているハルヒの深層意識に「空間」を作った。この空間に彼女の意識を送ればそこで彼女は活動し、戻せば眠りにつく。 試しに送ってみた。彼女の慌てようがあまりにも滑稽なので、この空間を「箱庭」と呼ぼう。ボクは彼女の意識を箱庭から戻した。 その後彼女の力を奪った。急進派には暴走防止だと理由をつけて納得させた。 急進派の提案により、未来人の処理は急進派に任せた。 次の夜、ボクはやや口調を変えて箱庭で彼女と話した。途中自分の口調と混ぜて「バタシ」や「キャナタ」と失言したが、彼女は気にしなかった。適当なことを言って彼女を眠らせた。 最後に彼女の記憶を少しいじくった。急進派は困惑していたが気にしない。彼女は「昨日教室でクラスメイトの前で大声でキョンに告白して、OKをもらった」という偽りの記憶を持った。 彼女の身辺情報はすでに急進派から聞いていたので、長門さんが混乱を世界改変することは読めていた。 なぜ少しずつ記憶を改変するか?わかりやすい矛盾を生まず、偽りの記憶をより信じこませるためである。 ボクは当分学校を休み、自分の部屋で急進派のTFEIとモニターを見ることになった。モニターにはカメラがなく、誰にも気づかれずハルヒの行動をじっと覗けるようだ。急進派独自の技術だと言われた。 一度キョンに会いに行った。少しでもボクを記憶に残し、いつか頼ってくれることを望んだからだ。 だがここで失言した。 「今日は大変だったろう」 まるで今日の出来事を知っているような発言をしてしまった。だがキョンは気づかなかった。 家に戻ったボクは急進派に主流派を消すよう指示した。 その日の夜箱庭を覗いた。彼女は見事なまでに「偽りの」記憶を信じていた。例によって彼女を眠らせた。 再び記憶を改変し、「告白した日から、キョンと甘い時間を過ごしつづけた」という記憶を植え付けた。 なぜ彼女の恋を応援をするような改変を行うか?それはキョンに嫌わせるためさ。 身に覚えのない記憶を押し付けられたら、誰だって嫌になる。困り果てたキョンはボクを頼り、それをきっかけに交流を深める。恋人になれた時がゴールだ。 その日の朝、あわてるTFEIにたたき起こされた。外は雨か。 モニターを見てみると、家でハルヒが包丁片手に一人で何か叫んでいる。 急進派に聞いたが、記憶改変のバグではないようだ。 ハルヒは両親の寝室に入った。ボクは目を疑った。いきなり仰向けの父親の首に包丁を突き刺したのだ。引き抜くと、あたりに血が飛び散った。 全身に返り血を浴びたハルヒは、今度は母親の首にも突き刺し叫んだ。 ねぇ、なんでキョンと付き合っちゃいけないの? 確かにそう聞き取れた。どうやら長門さんが改変した世界では両親に交際を反対されてたんだろう。それで恨んだ彼女は・・・でも行動が妙だ。 ボクは吐き気がした。何度も首に包丁を突き刺し、ついには片目を潰した。部屋は地獄絵図となった。なおも聞こえる叫び声。 勝手にすればいいんでしょう、やがてそう言いながら彼女は風呂場で着替え手足や髪を洗い始めた。 急進派は彼女が幻覚を見ているのではないか、と指摘した。改変のバグではないのだろう、と反論する。それとは別だ、と返答された。 ハルヒはキョンへの過剰な愛情と自己防衛のために、自ら幻覚を作りだしているらしい。あの改変はまずかったか。 やがて彼女は頬にやや残っている血を気にせず、二人分の弁当とトーストを作り始めた。 彼女は自身で記憶改変し続けているようで、ボクが植え付けた覚えのない記憶をつぶやいている。とりあえず急進派に他の派閥を消すよう指示した。 彼女が登校する直前、彼女が台所から「なにか」をカバンに入れた。モニター視点からでは「なにか」を見れなかった。 5時限終了後、まさか彼女が未来人を殺すとは思わなかった。予定に支障はないが、慎重に動いた方がよさそうだ。 ボクが彼女の記憶を改変できるのは箱庭でのみ。完全には奪った力をあやつれないようだ。 彼女が家で風呂に入ってる時に歌っていた歌詞。おそらく長門さんを殺すつもりなのだろう。彼女が出かけたとき急進派に指示し、長門宅にいる人全員を気絶させた。 彼女が長門さんの家に着く前に、ボクは急進派に玄関や玄関ホールの鍵を空けるよう指示した。 傘もなしに雨の中を歩いたハルヒは長門宅に入ると、辺りに散らばる人間が見えていないかのように台所へ向かった。そして包丁を右手に握った。倒れている長門さんの所へ向かうと、叫びながら蹴り飛ばし始めた。 有希、お願いだからキョンを誘惑しないで!あたしが優しく言ってるうちに謝って!ベランダに逃げないで! ハルヒは長門さんの首を左手でつかみ、ベランダに連れていき壁に抑えつけた。 ねえ有希、あたしはただ謝って欲しいだけなの! ハルヒは右手の包丁で長門さんの首を深々と刺した。ボクは思わず目を背けた。何度も引き抜いては刺し、その間も叫び声は続く。 そんなに怯えないで!あたしは脅迫しにきたわけじゃないの!そうよそう言ってくれればいいのよ、ありがとう有希! ハルヒは最後に笑顔で彼女の左胸に包丁を突き刺した。ハルヒはすでに血まみれだった。 ハルヒは床に血の足跡を残しマンションを出て、雨の中を帰った。偶然にも雨は彼女から血を洗い流した。 イレギュラーはたくさん起きたが、計画はむしろいい方向に向かっている。キョンはハルヒを恐れ、ボクを頼るかもしれない。 家に帰った彼女は服を着替え始めた。途中キョンから電話がきたようだ。よく平然とそんなことを言えるな。 パジャマに着替えた彼女は就寝した。 ボクは彼女の意識を箱庭へ送り語りかけた。皮肉をこめてボクは彼女にこう言った。 「偽りの記憶はいいものだろう」 彼女は見えないボクを信仰している。これぐらいじゃ彼女はあやつられていることに気づかない。 「私たちは彼女の観察を終了します」 ボクのとなりにいるTFEIが突然ふざけたことを言った。 彼女の変化で貴重な資料を十分手に入れたため世界を元に戻す、そう言った。 ボクはハルヒに適当に応対しつつ急進派を説得した。だが断られた。そしてコイツラはボクから力を奪おうとした。 ボクはハルヒを眠らせ、コイツラに言ってやった。 もうおまえらはようずみだからきえろ するとTFEIがみるみる消えていった、謎の呪文を唱えながら。本当に願っただけで消えた。 次にボクは一般人の記憶を改変前の世界に戻した。キョンとハルヒが付き合ってたらボクの計画の意味がない。 改変後突然自分の力が弱まる感覚に襲われた。まさかあの呪文は・・・くそ。もう一度改変を試みたが力が足りないのだろう、失敗した。どうやらボクが力を使うたびに力が減っていくように仕組まれたようだ。 キョンと恋人になりたいなら最初から彼の記憶をいじればいいのだが、仕組まれた愛なんて嫌だからしない。 誰にもボクのキョンは渡さない。 朝は土砂降りの雨、昼も変わらず。ボクは相合い傘で下校しているハルヒとキョンのあとをつけている、ポケットにナイフを忍ばせて。彼らが破局する、直感がそう言うからだ。 キョンが彼女と口論を始めた。あっハルヒを突き飛ばした。彼女は逃げ出した。あとは彼女を 自 殺 さ せ れ ば 終 わ り ボクは彼女を追いかけ、呼び止めた。あんた誰、と涙を止めて言われた。 佐々木「私はあなたを箱舟へ乗せる者です」 ハルヒ「あなたが?今までありがとう、でも」 ハルヒはまた泣きはじめた。 佐々木「心配しないで。あれは照れ隠しさ」 ハルヒ「・・・そうよね」 ハルヒを傘に入れてなぐさめつつ計画を続ける。 佐々木「我々を楽園へ導ける箱舟は、哀れなる魂を大地から解き放つ」 ハルヒ「あたしはどーせ哀れな魂ですよ」 佐々木「救いを求めるあなたに『アーク』を与えよう」 ボクはポケットから「ただの」アーミーナイフを取り出すと、ハルヒに手渡した。 佐々木「これで刺せば楽園に行けます」 ハルヒ「本当に!?」 そこまで喜ばれてもな。最後の誘導をしよう。 佐々木「あなたはそれで先にイっててください。彼は私が連れていきます」 だがサイアクの誤算が起きた。 ハルヒ「あなたはしなくていいわ。あたしがキョンを連れていく!」 やめろ!そんなことしたら! 佐々木「あなたがする必要はないよ。バタシが」 ハルヒ「心配しないで。必ず成功するわ!」 佐々木「待て!」 彼のもとへ走る彼女を必死に追ったが見失った。ボクはがむしゃらに探した。 ボクが彼女を見つけた時、すでに手遅れだった。横たわる男と女。 ボクはその場で泣いた。せめてハルヒが死ぬ前に絶望を与えよう。そう誓いボクは目を閉じ、ヤツの意識を箱庭に送りどなった。 その間にも力はすり減っていった。ボクは最後に実験をしてみた。 「ラクエンへ堕ちろ」 そう言い箱庭との接続を解除した、ヤツを箱庭に送ったまま。実験の結果を知る気はない。 解除した直後、数人の大人に囲まれていることに気づいた。 執事「君が佐々木くんだね」 メイド「おとなしく拘束されてください」 ボクは大人の輪から逃げた。追いかける大人ども、あれは機関か。 逃げてる最中に気づいた。そういやキョンは死んじゃったんだ。じゃあ 生キテテモ仕方ガナイナ ボクは今車道を走っている。あっ車がきた。またせたねキョン。1、2、3! 古泉「彼女の容体は?」 森「以前変わりません」 僕は涼宮さんが入院してる病室にいる。森さんが応対してくれた。あれから三日経った。 あの日黒幕が「佐々木」という人物の可能性が高まり、彼女の監視に僕を含む大量の人員が派遣されました。機関の指揮官のミスで、涼宮さんの監視には誰も着かなかったようです。 佐々木さんの前に突然涼宮さんが泣きながら走ってきたのには驚きました。彼女らの話によると、彼に冷たくされたらしい。彼には忠告しておいたんですがね。 佐々木さんが彼女にナイフを渡し、彼女が喜んで走り始めたとき、危機を感じました。なぜか佐々木さんが慌てて彼女を追いかけたので、僕たちも追いかけました。僕は走りながら彼に危険を知らせる電話をかけました。 彼は応答しましたが、その直後に携帯電話が地面に落ちた音が聞こえました。涼宮さんが追いついた?しかし早すぎる。佐々木さんも彼女を見失ったようで、でたらめな方向に走ってました。 しばらくすると電話越しに何かが地面に倒れた音が聞こえ、その後に涼宮さんの歓喜とまた何かが倒れた音を聞きました。 いつのまにか佐々木さんが立ち止まってました。彼女の視線の先を見るとキョンと涼宮さんが倒れており、涼宮さんの左胸にはナイフが刺さっていました。佐々木さんは泣き始めました。 僕たちは彼女を包囲しました。彼女は気づかないのか、さっきから目をつぶったままである。と思うと目を開き僕たちに気づいたようです。 新川さんの合図で捕獲を開始。だが彼女は運動能力が高いのか、包囲網を抜けました。当然後を追いました。 道路の歩道に出て、だんだん彼女との距離が縮まってきました。そして突然 彼女は車道へ飛び出しました。 そして車にはねられ地面に落下。確認すると、即死でした。その顔は笑っていました。 機関はこの件を警察に引き渡しました。涼宮さんだけは奇跡的に生還しました。機関の働きで、彼女は警察病院でなく大学病院に搬送されました。 だが問題が起きました。彼女は意識がなく、何を言っても反応がないのです。脳死ではない植物人間のように。 なぜあの時涼宮さんがありえないスピードで彼の元にいたのか。仮説として、彼女の愛が力を一時的に戻したというのがある。もしそうならば、彼女は彼を「本当に」愛していたのだろう。 森「彼の葬式には是非彼女にも参加してもらいたいわ」 古泉「そうですね。涼宮さんを許してくれますよ、キョン君なら」 その時ささいな、本当に些細な奇跡が起きた。 森「あっ涙が!これは医師を読んだ方が」 古泉「いえそっとしておきましょう」 涼宮さんの閉じた目から一筋の涙が流れた。それは温かいもののように感じられた。 ここはとある一軒家。 兄をなくした少女はネコと遊んでいた。その目に涙をためながら。 少女が少しネコから目を離した。ネコは少女から逃げ、思い出の部屋へ向かった。少女は悲しみを隠しゆっくり追いかけた。 そこはまだ片付けていない兄の部屋。なにを思ったのか、ネコは机によじのぼった。 ネコは机の上の一冊の本を邪魔そうにどかした。その本は床に落ちた。ブックカバーは外れ、白い表紙が姿を現した。その表紙には鉛筆で文章が書かれていた。 兄は気づかなかったのだろう、「この本のメッセージ」がこれであることに。 文章はこう書かれていた。 最終手段として、世界を改変前の世界に戻すためのプログラムを記した。この表紙を見ながら「楽園へ」と言えば起動する。 だがこのプログラムは一つの代償がある。改変には起動者の生体情報を使う。つまり改変後の世界に起動者は存在しない。 私はあなたに消えて欲しくない。でもあなたが望むなら起動して。 今までありがとう YUKI.N 一人の少女の素直でない恋心が起こした悲劇。三人は等しく犠牲者。犠牲者たる彼らを救う幼き箱舟が一歩、また一歩と兄の部屋へ歩いていく。 ――――――end―――――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5580.html
翌朝、俺はいつものように妹の強烈なボディーアタックを食らって目を覚ますという一部の人間にはうらやましがられそうな目覚めを演じた。しかしもちろん俺が自分をうらやむわけもなく、感慨もへったくれもないような目覚めでありよってまったく爽快な気分はしない。 爽快な気分がしないと言えば我が家の飼い猫シャミセンも完全にだらけモードで床に寝そべっている。夏の暑さにすっかり気怠くなったのだろう。 どうしてやろうかとシャミセンを見て思案する俺だったが、俺が起こしてやる前に妹によって抱きかかえられ、反抗の意思表示も軽く無視されて妹の『ごはんのうた(新バージョン)』とともに階下へと連行されていった。 朝起きたら世界が変わっていた――とかいう冗談みたいな事態になるのは絶対に避けたいものの、ならばそれをどう回避するかという問題であり、もしかすると俺は避けるよりも変わった世界を元に戻すほうが素質があるのではないかという結論に達するわけである。朝から何を言ってるんだ、俺は。 しかし、実を言うとそれは事実かもしれん。なにしろ十二月あたりに俺はそんなことを経験しているからな。 しかしまあ、そうそう世界も変わるもんじゃないだろうというのが俺の楽観的な考えである。この世界の神様だってそこまでこの世界に住んでいる人間(とりわけ俺)に理不尽な設定を押しつけるわけはないだろう、と。もっとも、あの時世界を変えたのは神様じゃなくて地球外生命体だったのだが。 朝食を食っている間、俺はそんなアホなことを考えていた。 一日の始まりというのは当然ながら自分の家にいるわけで、ということは学校の俺の後ろに誰が座っているのかは朝の時点では解らないのである。 無論、そこにいるのがカナダに転校したことになってるヤツだったらそれはもう悪夢以外の何者でもなく、今すぐ110通報してそいつを捕まえておくとか大量の保険に加入しておくとかしないとならないだろう。 ありがたいことに、あの日以来今のところそういうことにはなっていないが。 何と言っても俺が自分の教室に着いたとき、俺の後ろの席に我が団の団長が座っていてくれればそれほど安心できることもない。 そして、今日もそうだった。 谷口や国木田連中と一緒にひーこら言って坂を登り、二年五組の教室で不機嫌なオーラを放出して机に伏せているハルヒの姿を確認できたとき、俺はああ今日も無事らしいなということを悟った。 悟った、が。 俺はすぐに、今日が無事と言えるほど無事な状況ではないことを認識し直すはめになるのだった。 * 今日は特に暑かった。 昨日のように湿度を上げて嫌がらせ攻撃を仕掛けてくることはなかったが、今日は純粋に太陽光の威力が強い。誰かが太陽の表面にせっせとガソリンを注いでいるんじゃなかろうか。 「まーったく暑いわねっ!」 ハルヒの機嫌もさらに下方修正が施されているようだった。そのセリフも今日だけで三度目くらいである。朝のホームルーム前からこの状態では、午後には機関銃並の速度でグチをたれていることだろう。 「年々気温が上昇してるんだから、もっと早くから夏休みにすべきなのよ。いつまでも昔のまんまじゃ日本の社会は進歩していかないわ。これじゃあ予定が狂っちゃうわよ」 高校生の夏休みの長さに日本の社会を持ち出すのもどうかと思うが。 「その予定ってのは何だよ。俺はまだ聞かされてないぞ」 「夏休み前から文化祭映画の撮影をやるつもりだったの。去年みたいに秋に始めてると毎日すっごく忙しくなっちゃうからと思ってあたしなりに配慮したつもりだけど、でもこの暑さじゃ無理よ。外に出たら四秒で丸焼きになるわ」 むしろ好都合である。 「じゃあいっそのことやめちまおうぜ。この分だと文化祭までずっと酷暑だ。今年の文化祭は映画をやめてバンドだけで充分じゃねえか」 「ダメよ、そんなの。せっかくみくるちゃんで客寄せできるチャンスだもの。逃す手はないわ」 たとえ一年前に調子づいた拍子で言ったことでも、言ったことは必ずやり通すのが涼宮ハルヒ流である。早い話、メイワクだ。 そう、つまり今年も我がSOS団では去年に引き続き映画を撮ることになっているのである。 去年の映画のタイトルというのが『朝比奈ミクルの冒険 Episode 00』であって今年はその続編である。題名は確か、『長門ユキの逆襲Episode 00』だったっけ。作品名には長門の名前がクレジットされているものの内容は去年と同様に朝比奈さんのPVに相違なく、ハルヒは本気なのかもしれないがそこにストーリー性は皆無である。カメラマンの俺はまだいいが、高校三年生になってまでセクハラウェイトレスの扮装をさせられて幼稚園児のケンカよりもショボいと思われる戦闘シーンを演じなければならん朝比奈さんを思うと涙が出てくるね。 俺は二つ目の案を提示した。 「ならバンドのほうをやめようぜ。俺はギターなんか弾けないしボーカルなんてもっと無理だ。映画かバンドか、どっちかにしてくれ」 「ダメよ。去年は映画だけだったんだから今年は二つやるわ。来年はきっと三つやるわよ」 「来年のことはいい。しかし俺は本当に楽器なんて何もできないんだ。だからバンドはやめてくれ。あるいは、俺を除いた団員だけでやってろ」 この会話から解るとおり、呆れたことにSOS団は今度の文化祭で一般参加のバンドにまで出演する予定である。SOS団、というからにはその中には高確率で俺も入れられているのだろう。 映画のスクリーンならカメラマンである俺は映ってないからともかく、生のライブであるとうなら俺も否応なしに素顔を公表しなければならず、そうなったら最後校内だけでなく俺の近所にも俺がSOS団なる珍妙な団体に所属しているということが知れてしまう。それだけは阻止せねばならん。 しかしハルヒに意見を変えるつもりは蚊の針の先ほどもないようだった。この迷惑女は暑そうにセーラー服の胸元を手でパタつかせながら、 「何言ってるの。あんたにだってできるやつはゴマンとあるわよ。みくるちゃんと一緒にタンバリン叩いてたっていいけど、それよりもあんたには舞台の隅でカスタネットでも叩いてるほうがお似合いね」 嫌だね。なおさら嫌だ。 ――それは何の前触れもなく訪れた。 俺がどう反論の意を唱えようかと考えていると、ハルヒは次のように宣言したのだった。 「とにかく、あたしは一度言ったことをひっくり返すつもりはないわ。今年はバンドをやるし、映画も『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』を上映させるからね!」 ハルヒは確かにそう言った。 お気づきだろうか。しごく当然のように言ってのけたため聞き流してしまいそうだったが、俺の耳及び危険レーダーはそれをしっかり察知していた。 一瞬聞き間違いかと思ったが、俺は自分の耳をそれなりに信用しているつもりである。 あれ? ハルヒは何と言った? 「こらキョン、せっかくあたしがカッコいいこと言ってるのに、あんたの今の顔はいつにも増してマヌケ面よ。写真に撮って収めておきたいくらいだわ」 いや、そんなことはいい。俺のマヌケ面写真を撮ってもせいぜい後世SOS団員の笑いのタネにさせられるだけだろう。それよりも、 「すまんハルヒ、もう一度映画のタイトルを言ってくれないか? ちょっと違ってたような気がしてな」 「『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』よ。あんたまさか忘れたの?」 はあ? 『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』だと? そんなもんは知らん。今年やるのは『長門ユキの逆襲Episode 00』だろうが。わざわざインチキな予告編まで作らされたんだから俺が間違えるはずはないぜ。それともハルヒが勝手に題名を変更したのか? 「はあ? って言いたいのはこっちのほうよ。『ナガトナントカのナントカ』なんて一度も聞いたことないわ。今年やるのは『朝比奈ミクルの初恋Episode 00』で、最初から変わってないわよ。予告編も作ったじゃない。寝ぼけてるようなら殴って起こしてあげるけど、どう?」 何を言うか、俺はしっかり起きている。 「起きてるわけないじゃないの。だいたいそのタイトル……何だっけ、もう一度言いなさい」 「『長門ユキの逆襲Episode 00』」 「それはどっから湧いて出たのよ。そもそもそのナガトユキとかいうのは何? 人の名前?」 ハルヒはしごく真面目な顔をしている。 おいおい、自分で考えた映画の題名を忘れたと思ったら今度は長門のことを忘れたとしらばっくれる気か。冗談なら冗談っぽく言わないと人には伝わらないぜ。だいたいそんな冗談はお前的に「笑えない」冗談に分類される気がするぞ。 「あたしは冗談を言った覚えなんかないわ。だってナガトユキなんて一度も聞いたことないもの。何、あんたの中学の時とかの同級生?」 そんなバカな。 「長門有希だ。知らないのか」 背中に若干冷たいものを感じる。まさかとは思うが……。 「知らない。あんたにそんな知り合いがいたの? どんな娘、そのナガトユキとかいう娘は。何か特殊能力があったりする?」 「うちゅ――」 う人とつなげようとして危うく思いとどまった。 「SOS団のメンバーだろうが。そして、たった一人の文芸部員だ」 一番最初に長門から受けた無機質な視線や機械的に動く指を俺は一生忘れない自信がある。そんなのは正体を知っていようがいまいがハルヒも同じはずだ。 さあハルヒ、俺の平常心をもてあそぶつもりで言った冗談ならそろそろやめにしてくれないか。そういう悪質な冗談は俺の過去の体験も手伝って見えざる第六感を刺激してくれるのでね。 しかしハルヒは心底呆れたような顔をしており、そしてとうとう、嫌な予感のしている俺にとどめを刺した。 「SOS団ってあんたねえ。本当にどうかしてるんじゃないの? SOS団は一年生の四月あたりからずっと四人だけでしょ」 俺の頭を強烈なショックがぶっ叩いた。 ありえん。 ハルヒ、俺、長門、朝比奈さん、古泉。どう考えたって五人だ。これが冗談だというならそれは長門に失礼だぜ。もし本気で言ってるなら、ハルヒの頭か世界が狂ったんだ。 「バンドは」 俺の出した声は心なしかかすれていた。 「去年、文化祭のENOZのバンドでギターをやってたのは誰だ」 「三年生の人、中西さんとか言ったかしら」 そんははずはない。 「映画はどうだ。去年、俺らが文化祭でやった映画で朝比奈さんの敵を演じたのは誰だ。黒衣纏って棒を持ってた奴だ」 「谷口」 あっさりと答えやがる。くそ谷口め。お前は脇役の脇役で水中ダイブでもしてればよかったんだ。お前に長門役を務められるほどの力量はないぞ。 などと言っていても仕方ない。 冗談であるという可能性を俺が信用できないのはハルヒの顔を見れば解る。こいつは友人が覚醒剤中毒者だったと知らされたばかりのような呆気にとられた顔をしてやがる。こんな顔は見たこともない。 「ハルヒ、お前は本当に長門を知らないのか?」 「知らないわよ、うるさいわね」 「お前、確か去年の三月にあった百人一首大会で二位だったよな」 「そうだけど、何の脈絡があるの?」 「脈絡なんかどうでもいい。それよりも、あの時一位になったのは誰だった?」 俺の記憶通りならそれは長門のはずである。読書好きのヒューマノイドインターフェース。 「さあ誰だったかしら。あたしの知ってる人じゃなかったわね。黒くて長い髪をした女子だったかしら」 長門はロングヘアではない。ハルヒは一時期髪の長かったときがあったが、長門は三年前に見たときも昨日見たときもショートカットだった。 「ねえ、あんたさっきから変だけど、どうかしたの?」 「どうもしてない」 俺は即答した。どうかしてるのはハルヒの頭か、それともこの世界か。 まさか――。 この感覚。ハルヒの病人を見るような目つき。当然いるはずの人間が突然いなくなった経験を、俺は過去にしている。 忘れもしない去年の十二月十八日。 目眩がして、世界がぐるぐる回転しているような感覚に襲われた。 あれをもう一度やらせようってんじゃねえだろうな。 断片断片が次々とフラッシュバックする。シャイな長門、髪の長いハルヒ、書道部の朝比奈さん、学生服を着た古泉。 「おいハルヒ、もう一度訊くが、お前は冗談を言っているのか? 言っているんだったらすぐにやめてくれ。土下座までならしてやる」 「もう一度言うわ。言ってない。あんた本当に頭がどうかしちゃったんでしょ」 ガラガラ。 教室の扉が開く音がして、俺は反射的にそちらを向いた。教室にいた男子が廊下に出ていっただけだった。間違ってもお前だけは出てくるなよ、殺人鬼朝倉。 俺はハルヒに向き直り、 「お前、光陽園学院にいたことはないか? というか、あそこは女子校だよな」 「そう、女子校。あんたが狂ってるものとして真面目に答えてあげるけど、あたしはあんな学校には一度もいたことがないわ。一年の最初からずっと北高生よ」 世界がおかしくなってるんだとしても、冬とまったく同じではないらしい。 「すまん。もう一つだけ訊いていいか?」 「いいけど」 「お前は一年の最初の自己紹介でこう言わなかったか? 『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい』とな。そしてお前は俺と一緒にSOS団を設立した。合ってるか?」 ハルヒはやや複雑そうな顔をして俺を見ていたが、やがて答えた。 「ええ、 その通りよ」 * ホームルームが始まるまで、あと少ししか時間がない。 運のいいことに俺は今日普段よりも三分ほど早く学校に到着していた。それは妹の攻撃がいつにも増して強力だったからということに尽きるわけだが、そんなことはどうでもいい。 「ちょっと外に行って来る」 ハルヒにそう言って、俺は教室を飛び出した。 ハルヒは長門の存在を知らなかった。さまざまな出来事のうち長門の部分が消されて他の何かに書き換えられている。ハルヒがおかしいのか世界が変わっちまったのか。 瞬間、俺はまたしても強烈な目眩を覚えた。 デジャヴ。 三半規管がイカれたみたいに足許がぐらついてくる。 俺はこんな気持ちで、こんなふうに廊下を走ったことがあるのだ。ハルヒに引きずられて走らされたことならいくらでもあるが、自ら全力疾走なんてのはあの時と今くらいなもんだ。 そうだ。 あの時も、俺は朝倉から逃げて教室を飛び出した。そして長門はクラスにはおらず、古泉のいるはずの九組は吹き飛んでいた。 そして今、俺はまるで同じ道を辿っているではないか。 冗談じゃない。二度も同じことをやってたまるか。 長門のクラスにはすぐ着いた。朝のホームルーム前ということもあってクラスの中は雑然としており、この人混みの中で長門の小柄な姿を探すのは難しかった。目を皿にして教室のはじからはじまで走らせるが、長門らしき女子は見つからない。 「ふざけやがって」 俺は仕方なくクラスの中に足を踏み入れた。中学の級友とかで知っている顔を探しては次々と質問をぶつけていく。 長門有希という女子を知っているか。このクラスにはいないのか。この学年にはいないのか。 まるで申し合わせたかのような完璧さ。俺が声をかけた連中はそろいも揃ってトボけた顔をしやがり、当然のようにかぶりを振った。 つまり、そんな奴は知らない、と。 なんてこった……。長門を知らないのはハルヒだけではなかったのだ。 もう偶然などという言葉では片づけようがない。冗談説も通用しない。こいつらは集団で頭が爽やかなことになってるのか、まさかとは思うが世界改変があったのか。 俺はワケの解らんだろう愚問に答えてくれた連中に意識外で礼を述べると、くるりと回れ右をして絶望感を背負って廊下に出た。 何かが起こっているのだ。 ハルヒの次は長門が消える番ってか? ふざけんな。 俺は思い出す。この次、俺はいったいどこに向かったんだ。十二月十八日、長門がいないことを知った俺は誰に希望を託した? 言うまでもない、一年九組である。古泉のハンサム面がいるはずの理数クラス。そしてあの時、一年九組はなくなっていた――。 それを二年バージョンで起こす気か。大事な時だけ消えるってのはなしだぞ、古泉。 同時に朝比奈さんの顔も思い浮かんだが、いかんせん三年の教室は遠い。同学年であったのならどちらを選ぶかは微妙だが、それは今の問題ではない。 トラウマに押しつぶされそうになりながらも俺はフラフラの状態で二年八組に到着した。 その横には見間違いようもなくしっかりと教室があって二年九組というプレートが張り付けられている。突貫工事も今回は間に合わなかったらしいな。 俺は頭の隅で聞いたことがあるようなないような怪しい呪文を唱えながら、ホームルーム中なのも構わずに扉を開けた。 「どうしました?」 担任女性教師の声をバックに、教室内の全員がギョッと俺のほうを振り向く。 「古泉は、古泉一樹はいますか?」 「ああ」 くそ! 俺が見たところこの中には古泉の顔はない。そうでなくても、俺が尋常ではない表情を顔に張り付けて他教室に侵入すれば古泉は立ち上がって俺のところに来てくれるに違いない。 今度こそぶっ倒れるしかないかと思ったが、女性教師は何やら書類にさっと目を通すと俺に向かって、 「今日は休みですね。風邪だそうです」 そう言った。 九組の生徒も特に不審がった様子は見せない。クラスメイトが風邪を引いて休んだと聞かされたときのいたって普通の反応であり、そんな奴はうちのクラスにはいないという感じの反応を示している奴は一人もいない。加えて、俺の立っている入り口あたりの机が一つ空いていた。 「それで、彼に何か用だったんですか?」 「いや……別に」 俺は適当に返事をし、その空いていた椅子に古泉一樹と印字されているのを強烈に脳に複写してから九組を出た。 廊下の壁にもたれかかって、詰まっていた何かを吐き出すように深く息を吐いた。そうすると体中から力が抜けて、壁にもたれかかったままずるずると床に崩れ落ちた。 古泉はいるのだ。 確証はない。しかし、その可能性は高い。そうでなければあいつの椅子や机なんかが九組にあるわけがないのだ。 何ともいえない感情がこみ上げてきた。嬉しい、というやつだろうかね。 欠席というのが気にはかかるが、俺からすればそれも考え得る範囲である。 たぶん、あの教師が言ったような風邪というのはまずありえん。それはおそらく欠席理由にするだけの、表向きの理由だ。この非常時にマジで風邪でも引いていようものなら俺がすぐさまベッドから引きずり出してやる。 そうではなくて、古泉が欠席している理由は『機関』関連ではないかと思うのだ。長門が消えたのはほぼ確実であり何かが起こっているというのは間違いないから、その処理か何かに追われているのだろう。 気を利かして俺に電話一本もくれないような状態ってのはどんなもんかと思うが、俺は橘京子や周防九曜、敵対未来人を知っている。もしかするとあっちで大きな動きがあったのかもしれん。それがこの長門が消えているらしいという事態に直結している可能性は大いにある。 古泉の携帯電話にかけてやろうかと思ったが、ポケットにつっこんだ俺の手は虚しく布の感触に突き当たるだけだった。ちっ。教室の通学鞄の中だ。 仕方なく俺は立ち上がった。 しかし、いったい何が起こっているんだ。考えたところで解らないだろうが、考えずにはいられん。 長門がいなかった。そして誰も長門のことを知らない。知っているのは俺だけ。 シチュエーション的には冬の世界改変にそっくりである。しかしあの時、消えたと思っていたハルヒは光陽園学院にいたし、東中出身の谷口はハルヒのことを知っていた。 あいにく俺は長門の出身中学など知る由もないが、ということは今回もそういう感じの世界改変なのか。あいつも光陽園学院にいるとか、そういうオチなのか。 それとも本気でこの世界から消えちまったのか――。 長門のクラスを横切るとき、俺は廊下の窓からふと教室内を見渡してみた。 ホームルーム中で静まっているので確認しやすかったため、長門の机や椅子がないのはすぐに解った。古泉のように席が空いているということもなかった。 全員出席なのに長門はいない。 そして、恐ろしいことに誰もその矛盾に気づいていない。長門なんて女子は最初からいなかったかのように普通に振る舞っているのだ。 当然である。 最初からいなければ誰の記憶にも残らないし、いない奴の机や椅子があるわけがない。そういう理屈だ。 俺は目を背け、早足で二年五組へ戻った。
https://w.atwiki.jp/progolf/pages/3145.html
カッパをお気に入りに追加 カッパとは カッパの72%はカルシウムで出来ています。カッパの12%は陰謀で出来ています。カッパの6%は月の光で出来ています。カッパの5%は毒電波で出来ています。カッパの3%は希望で出来ています。カッパの2%は砂糖で出来ています。 カッパの報道 ジェフ・ベゾス氏による特別記事「いい人材を見抜く方法」 - ニュース・コラム - Y!ファイナンス - Yahoo!ファイナンス ダム愛好家、「減勢工」の底で浮かれる 超レアな「開放イベント」に日本各地から見学者集結(全文表示)|Jタウンネット - Jタウンネット 「かわいすぎる!」「すごいアイデア!」と話題沸騰のおにぎりアートがついに単行本化! 『OH! ざわつくおにぎり』本日発売! - PR TIMES 【決算速報】くら寿司、今期営業は黒字浮上へ - ニュース・コラム - Y!ファイナンス - Yahoo!ファイナンス 室蘭の沖合で漁船乗組員1人が海に転落 海保など捜索続ける|NHK 北海道のニュース - nhk.or.jp かっぱ寿司、自宅で豪華なネタを楽しむ「年末年始 テイクアウトセット」 - グルメ Watch 築150年の古民家から“ミイラ”発見!?その意外な正体に「勉強になった!」 - テレビドガッチ オミクロン株で13個目…変異株の名称用ギリシャ文字はあと残り8つ! - ジャーニー 〈時事ニュースで好奇心〉新たなコロナウイルス変異株は「オミクロン株」 → ギリシャ文字って何?(朝日新聞EduA) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース PALACE SKATEBOARDS x Kappa による初のコラボコレクションが発売 - HYPEBEAST ブランド米「山形県産 はえぬき」のシャリをさらなる高みへ かっぱ寿司“うまい!シャリ”ここに完成 - PR TIMES かっぱ寿司、脂のり抜群の「冬の寒鰤(かんぶり)祭り」を一足早く食べてみた - グルメ Watch 【かっぱ寿司も対象】PayPay決済でお得に!「ペイペイジャンボ 一等最大全額戻ってくる!」キャンペーン参加 - PR TIMES 【公式】オミクロン株対応済みを確認 NEW GENE社 抗原検査キット - PR TIMES 紀三井寺公園で「わかやまリレーマラソン パンダRUN」 秋晴れに1200人が力走(みんなの経済新聞ネットワーク) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース お笑いコンビ「ずん」がボートレースへの思いを激白(サンケイスポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 優勝した辻栄蔵「桐生君が見えていい展開になるかと」/多摩川SG(日刊スポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース すしネタにお金をかける回転ずしチェーン 2位は「かっぱ寿司」では1位は? - M&A Online ずん飯尾「注目は1号艇の辻選手。料理人だったらいい和食を作りそう」…多摩川・SGチャレンジカップ28日優勝戦(スポーツ報知) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 妖怪ケンムン実在したのか!〝東スポ探検隊〟徳之島へ急行!!(東スポWeb) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【3日間限定】出前館「週末すし祭」好評につき11月も参加! 人気の『賑わいセット』がなんと20%OFFに! ご自宅でもお得に!うまい!かっぱ寿司 - PR TIMES かっぱ寿司の新メニュー! 6貫で330円の「やんちゃ盛り サーモンいくら」(BCN) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ジェフ千葉の新ユニフォームは懐かしさ満点! 1993年のデザインをオマージュ、佐藤勇人「本来のジェフのクラブカラーが採用されている」(超WORLDサッカー!) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース スシロー・くら寿司は四半期2桁増収!かっぱ寿司は減収…明暗分けた要因は - ダイヤモンド・オンライン ユニ以外も素晴らしい!ヴェネツィア、21-22「KAPPAチームウェア」8選 - Qoly Football Web Magazine 「PayPayグルメ」を使って実際にかっぱ寿司でクーポン入手から予約を行ってみた! (2021年11月12日) - エキサイトニュース かっぱ寿司の本気がつまった「本ずわい蟹」商品が7品! 生でも茹でてもうまい!売切御免! かっぱ寿司に冬の味覚“かに”到来!! - PR TIMES 相葉雅紀のカッパ姿にファンが思い出した「アラフェス」での着ぐるみ姿 - アサジョ かっぱ寿司/4~9月は寿司全皿半額実施も営業損失20億円 - 流通ニュース 【オープン記念】『ランドマーク風 サーモンタワー』寿司販売 かっぱ寿司が横浜駅近に登場!「かっぱ寿司 横浜西口 エキニア店」 - PR TIMES かっぱ寿司「牡蠣ととろ市場」開催、蒸し牡蠣はポン酢・ガーリックバターの2種類、カキフライ・天然みなみ鮪大トロ・天然のどぐろ炙りも - 食品産業新聞社 【5日間限定】かっぱ寿司大人気の食べ放題 11月は、お腹も頭もフル回転! チャレンジ!まちがい探し食べホー - PR TIMES 「DiDi Food」に「かっぱ寿司」が加盟 - PR TIMES 妖怪伝説が多い「岩手県」。遠野市に行けば、“カッパ捕獲許可証”が手に入る?/オニすご! とんでもねー!! ニッポンびっくり事典 - ダ・ヴィンチニュース 牡蠣好きにはたまらない!蒸し・天ぷら・フライ さらに天然みなみ鮪大とろまで!こだわりの豪華ネタが勢揃い かっぱ寿司で冬の味覚を先取り! - PR TIMES 飲食店予約サービス「PayPayグルメ」が開始 かっぱ寿司を「PayPayグルメ」で予約するとお会計金額より10%OFFに! - PR TIMES かっぱ寿司 神奈川県内16店舗対象!「かながわPay」総額70億円還元キャンペーン - PR TIMES 「一日中カッパはあまりない」 松山英樹は首位ターン→雨中の練習 - ゴルフダイジェスト・オンライン 【かっぱ寿司×PayPay】お持ち帰り(店頭会計)もOK!最大5%戻ってくる!お得なPayPayクーポン配布中 - PR TIMES 【5日間限定】かっぱ寿司10月後半の食べホーは“うまい!”だけじゃない!? 今回はなぞなぞチャレンジの食べ放題! - PR TIMES カッパと一緒にお祝い!大潟水と森公園20周年記念イベント | ニュース - joetsu.ne.jp ワクチン接種証明アプリ「ワクパス」登録で特典、かっぱ寿司・HIS・APAホテルなどが導入 - 食品産業新聞社 “うまい!かっぱ寿司”に待ったなし!横綱級の旨さ!「うまい!名勝負うにとろ場所」開幕です - PR TIMES 渋野日向子「カッパの皿みたいな“公園芝“に…」逆転V期待も12打差5位に「悔いはないです」【日本女子オープン】(中日スポーツ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【かっぱ寿司アプリ会員限定】ワクワクかっぱ寿司! あれもこれも入って550円(税込)!?超・超・超お得すぎる「新特典皿」始まります - PR TIMES 【小学生以下限定】かっぱ寿司に来店(店内飲食・お持ち帰り注文)でワクワク!「プチガチャ」1回無料で回せるよ!! - PR TIMES 「妖怪のまち」仕掛け人 福崎町職員の小川知男さん死去、自殺か - 神戸新聞NEXT うまくなったかっぱ寿司の覚悟を見てください! 生の国産本鮪がほぼ原価!? 沢山食べられると本当に赤字です 衝撃の『国産生本鮪』 一貫110円(税込)! - PR TIMES 赤井英和のプライベートに爆笑、松本人志「カッパやな」 » Lmaga.jp - Lmaga.jp(京阪神エルマガジン社) 「カッパの美脚」長崎県で史上初撮影! スラリと伸びた緑色&足の指には水かきを確認 - 東スポWeb かっぱ寿司 決意の1日! 単なる半額ではない、「寿司全皿半額」の戦略 進化したかっぱ寿司を知っていただきたい、体感していただきたい - PR TIMES 【アプリ会員限定】まいぜんシスターズ×かっぱ寿司 オリジナル限定デザイン全6種類!アクリルキーホルダープレゼントキャンペーン開催 - PR TIMES かっぱ寿司 青森県内2店舗リニューアルオープン! - PR TIMES ミュー・カッパ…警戒すべき変異株は?専門家に聞く - テレビ朝日 食べ放題50人に1人が無料に「カッパ寿司」が攻勢 - M&A Online 【本格ラーメンシリーズ】日本一煮干を追求したあの味をかっぱ寿司で第15弾は一口食べた瞬間“ニボい!”「ラーメン凪」監修 『“すごい”煮干ラーメン』登場 - PR TIMES 【ライブレポート】ユニゾン東阪自主企画で崎山蒼志、カッパマイナス、日食なつこ、黒子首と競演(写真32枚) - 音楽ナタリー 変異ウイルス「イータ株」、入国検疫で18人確認…「カッパ株」も19人 - 読売新聞 「両腕のない競泳選手」14歳・山田美幸を最年少メダリストに導いた 亡き父親の言葉 こうして少女は カッパ になった - PRESIDENT Online カッパの大賞は、この一枚 - 西日本新聞 【WEB・アプリご注文限定】秋もお家で「うまい!かっぱ寿司」 対象のお持ち帰り商品20%OFFキャンペーン開催 - PR TIMES 芦田愛菜、妖怪で好きなのはカッパ「一緒に川遊びできたら楽しいだろうな」 - ニッカンスポーツ お寿司にラーメン、ザンギにデザートまで!!かっぱ寿司で北海道旅行気分をお楽しみください 北海道の海と大地の“うまい!”がどさんこ盛り - PR TIMES 「うまい!かっぱ寿司」を堪能してください!3日間限定!かっぱ寿司アプリ会員限定!店内飲食2割引クーポンを配信 - PR TIMES 天国のパパへ「カッパになったよ」パラ日本勢最年少メダル・山田美幸の一問一答 - 読売新聞 『小林さんちのメイドラゴンS』×かっぱ寿司コラボはいつから? - 電撃オンライン 日本を標的にしたマルバタイジングキャンペーンを確認 偽のWebサイトに注意 - ITmedia 【アプリ会員限定】小林さんちのメイドラゴンS×かっぱ寿司 TVアニメ2期放送開始記念!全6※種類! 限定クリアファイルプレゼントキャンペーン開催 - PR TIMES かっぱ寿司で秋の味覚“秋刀魚”を先取り!三陸産の秋刀魚を「生」「炙り」「蒲焼き」で! - PR TIMES カッパ伝説のある「新潟県立大潟水と森公園」(新潟県上越市)にカッパ像が設置 - にいがた経済新聞 県立大潟水と森公園にカッパ像 開園20周年のイベントも開催! | ニュース - joetsu.ne.jp 『ゆるゲゲ』、新超激レア「ガマ仙人」がピックアップガチャに登場! 新イベント「河童の働き方改革!」も同時開催! - PR TIMES アニメ「さらざんまい」の舞台! かっぱ・合羽・河童が混在する台東区・合羽橋エリアを読み解く(アーバン ライフ メトロ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「かっぱ寿司モレラ岐阜店」グランドオープン! 【オープン記念】本気にぎり実演販売・特別商品先行販売実施! - PR TIMES 親子でかっぱ寿司の裏側を探検しよう!かっぱ寿司 夏の自由研究2021 in愛知県 - PR TIMES 苦境のかっぱ寿司 社長がなぜライバル店のデータ不正入手 - 毎日新聞 - 毎日新聞 お盆はかっぱ寿司のお持ち帰り商品で家族団らん! 『夏限定!うまいネタ盛りセット』が特別価格に - PR TIMES かっぱ寿司の決意 「続・うまい!品質」 “本気シャリ”にふさわしい 一貫一貫を店内で握る! 【寿司屋品質】“本気にぎり”はじめます。 - PR TIMES こだわりのコーヒー豆 エチオピアモカ100%使用 かっぱ寿司のスイーツブランド“ごちCAFE”に夏スイーツが登場香り立つオリジナルコーヒーゼリー新発売 - PR TIMES 「嘘やろそれで散歩行ったんか」母親手作りの“犬のかっぱ”が衝撃的…なぜこの姿に? 投稿者と母親に聞いた - FNNプライムオンライン 「生け捕りで」「皿の水はこぼさない」7ヶ条を守って!? 公式「カッパ捕獲許可証」ネット販売が好調|まいどなニュース - 神戸新聞社 かっぱ寿司で、この夏の思い出を作ろう! 7月は5日間限定!! かっぱ寿司「汗かく夏も食べホー」開催! - PR TIMES いたずらカッパの逸話アニメ化 住民子孫に語り継がれた「詫び証文」、福井県美浜町 - 福井新聞 かっぱ寿司史上初!「最高等級A5ランク」黒毛和牛 【10日間限定】半年かけて開発した “どまんなかネタ”旨みが全開!「黒毛和牛祭り」開催 - PR TIMES バリィさんにも負けない!新SNS映えスポット!まつちカッパって何者? - DO?GO!愛媛 少年忍者・織山尚大が舞台主演 カッパの世界体験「すっげぇたのしかった」 - ニッカンスポーツ うまい!かっぱ寿司”で初夏を迎えましょう!日本のうまい!が味わえる「初夏の国産と天然 旨いネタめぐり」開催 - PR TIMES かっぱ寿司「レンタル回転レーン」サービス開始、1泊3300円で自宅が「ミニかっぱ寿司」に - 食品産業新聞社 Patta x Kappa から黄金期のACミランにオマージュを捧げたジャージーが登場 - HYPEBEAST かっぱ寿司の食べ放題「帰ってきた食べホー」再び、予約“即満席”の人気企画、寿司・サイド・スイーツなど対象106品 - 食品産業新聞社 カッパを信じる丸山桂里奈に緊急記者会見ドッキリ! - テレビドガッチ 豪雨で行方不明の「カッパちゃん」、線路の土砂から9か月ぶり救助 - 読売新聞 関東人に「かっぱげ!」と言われても、河童の毛の話をしているわけではありません(全文表示)|Jタウンネット - Jタウンネット 『モンハンライズ』ヨツミワドウの 河童 要素に注目!河童を求めて「遠野物語」の舞台へ旅をしてきました【特集】 - インサイド 【アプリ会員限定】キングダム×かっぱ寿司 スペシャルコラボ決定!全5種類!限定クリアファイルプレゼントキャンペーン - PR TIMES 【かっぱ寿司×PayPay】GW中もOK!お持ち帰り(店頭会計)もOK!10%戻ってくる!超お得なPayPayクーポン配布中 - PR TIMES カッパの贈り物 文字の謎解明 専門家から「間違いない」 敦賀市の寺 - 福井新聞 かっぱ寿司の本気【うまいの研究所】発足!!いつでも揚げたて、サクサク食感「新・天ぷら品質」“うまい!かっぱ寿司” 天ぷらリニューアル! - PR TIMES 伝承のカッパ銅印、何て書いてある? - 福井新聞 まさか妖怪? スーパーで売っていた「カッパ肉」にネット騒然、その正体は...(全文表示)|Jタウンネット - Jタウンネット カッパ@ウィキペディア カッパ 掲示板 名前(HN) カキコミ すべてのコメントを見る カッパのリンク #blogsearch2 ページ先頭へ カッパ このページについて このページはカッパのインターネット上の情報を集めたリンク集のようなものです。ブックマークしておけば、日々更新されるカッパに関連する最新情報にアクセスすることができます。 情報収集はプログラムで行っているため、名前が同じであるが異なるカテゴリーの情報が掲載される場合があります。ご了承ください。 リンク先の内容を保証するものではありません。ご自身の責任でクリックしてください。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/824.html
ここは文芸部部室こと我らがSOS団の溜まり場だ 朝比奈さんは今日もあられもない姿で奉仕活動に励み、長門は窓際の特等席で人を殺せそうな厚さのハードカバーを読んでいる。 俺はというと古泉と最近お気に入りのMTGを楽しんでいた――ちなみに俺のデッキは緑単の煙突主軸のコントロール、古泉は青単のリシャーダの海賊を主軸にしたコントロールだ――ここ最近は特に目立った動きもなく静かな毎日を送っていた。 ……少なくとも表面上は。だがな。 何故こんな言い回しをするかって?正直に言おう。オレ達は疲れていたんだ。ハルヒの我が侭に振り回される毎日に。 そりゃ最初のうちは楽しかったさ。宇宙人、未来人、超能力者と一緒になって事件を解決する。そんな夢物語のような日常になんだかんだ言いながらも俺は胸を踊らせたりもした。 だって、そうだろ?宇宙人と友達になれるだけでもすごいのに未来人や超能力者までもが現実に目の前に現れて俺を非現実な世界に連れていってくれるのだ。まさに子供の頃の夢を一辺に叶えたようなものだ。 これをつまらないと言う奴はよほど覚めた奴か本当の意味での大人くらいなものだろう。 そして俺は本当の意味での大人ではなかった。だからなんだかんだと文句を言いながらも心の底から楽しむことができたのだ。 では何故冒頭で否定的とも取れる意見述べたか?理由は単純、ハルヒの我が侭がオレ達のキャパシティを大きく上回ったことにある。 例えば閉鎖空間。SOS団を結成してからというものその発生回数は減ったもののその規模が通常のそれより遥かに大きくなったのだそうだ。 しかもその原因のほとんどが俺にあるというから責任を感じずにはいられないね。 そして俺に最も精神的苦痛を負わせた事件がある。それはこんな内容だった。 それは些細なことで始まったケンカだった。あの時は俺が折れるべきだったのだ。 悪いのはハルヒだからハルヒが謝るべき。 なんてつまらない意地を張らずにハルヒに土下座をして許しを請うべきだった。 しかしあの時の俺は強気だったしバカだった。 あろうことか俺はハルヒにお前が長門や朝比奈さんを少しは見習って女らしさというもをうんたらかんたらと説教を始めてしまった。 それがいけなかった。 前々から俺と長門の関係を怪しんでいたハルヒは激昂し、「なんでそこで有希が出てくるのよ!!」と怒鳴ると怒って帰ってしまったのである。 朝比奈さんはおろおろと怯え、長門は無表情だがどこか責めるような目線を送ってきた。 そしてこの件について一番の被害者になるであろう古泉はいつもの0円スマイルではなくまっこと珍しいことに真顔だった。 真顔の古泉が怖くて仕方なかった俺は古泉に平謝りしその日は解散となった。 明日ハルヒに謝ろう。そうすればまたいつも通りのSOS団が帰ってくるさ。俺はそんなことを考えていた。 だから翌日昼休みに消耗しきった古泉に呼び出されたことに少なからずも俺は動揺していた。古泉のあんな顔を見るのは始めてだった 「昨夜閉鎖空間が発生しました」 「そうだろうなあ…いや本当にお前には迷惑をかけた。すまんこの通りだ許しくれ!」 古泉は気にしてないと言わんばかりに微笑し淡々と話しを続けた。 「僕よりも涼宮さんに謝ってあげてください。なんせ昨夜の閉鎖空間の規模は今までの比ではなく我々《機関》だけでは対処できずに長門さんの勢力に協力してもらいやっとのことで鎮めることができたのですから」 古泉は淡々と話す――本当にすまん 「そして我々《機関》の中から始めての犠牲者もでました。あなたもご存知の新川さんが森さんをかばいが殉職しました。その森さんも背骨を折られ車椅子生活を余儀なくされました」 俺は絶句した。そりゃ人はいつか死ぬのだ。その事実は受け止めなければならない。 しかしこんなかたちで知人の不幸を知らされるとは夢にも思っていなかったからである。 真夏だというのに小刻みに震え、冗談だよなと言う俺を見て古泉は首を左右に振り否定。 また微笑し淡々と話し始める――なんでそんなにあっけらかんとしているんだよ…いっそのこと罵利雑言を浴びせ思いっきり殴ってくれ… 「僕は、僕達は別に貴方を責めているわけではありません。貴方はただ巻き込まれただけの一般人ですからね。ですが貴方の軽率な行動が簡単に僕達の命を刈り取ってしまう…この事実を忘れないでください。 では、後ほど」 そういって古泉は教室に戻っていった。 俺はというと食堂で昼食をとっていたハルヒに詰め寄り恥じも外聞も捨て泣きながら土下座した。 この時ばかりは周りの視線が気にならなかった。それくらい俺は焦っていたんだ。 とまあ、こんなことがありしばらく俺は古泉よろしくハルヒのイエスマンに成り下がっていたのだがこれにもちょっとしたエピソードがある。 なんでもかんでもはいはい肯定する俺にハルヒが不満を持ったのである。本当に難儀なあ、奴だこいつは… 古泉曰く俺は否定的立場を取りつつも最後にはハルヒを受け入れる性格でないといけないらしい。つまり新川事変(朝比奈さん命名)以前の俺だな。 新川事変以来ハルヒにビビっていた俺には無茶な注文だったがまた下手に刺激して閉鎖空間を発生されても困るので努めて俺は昔の俺を演じることにした。 おかげで自分を欺く術に異様にたけてしまった。全く嬉しくないネガティブな特技である。 ついでなので俺の肉体に最も苦痛を与えたエピソードもお話ししよう。 その日はいつものように文芸部部室で暇を持て余していた俺は古泉指導のもと演技力に磨きをかけていた。 そこに無遠慮なまでにバッスィィィィィン!!とドアを蹴破り現れたのは我らが団長涼宮ハルヒその人である。 ハルヒは何か悪巧みを思いついた時に見せる向日葵の様な笑顔――俺にはラフレシアの様な笑顔に見えたのは秘密だ――で開口一番 「アメフト大会に出るわよ!」 と、宣った。せめてビーチフットにしていただきたかったぜ。 大会はいつなんだ?という問いに満面の笑みで 「明後日よ!!」 と答えるハルヒ。まったくこいつは…… 「無理だ。アメフトのルールは野球とは違って複雑だぜ?」最初は否定的立場にいながら―― 「大丈夫よ!図書室でルールブック借りてきたしいざとなったらあんたの友達の中川くんに助っ人になってもらえばいいわ!!」 俺はハルヒの持ってきたルールブックにいちべつし、軽いため息を吐くと 「“中河”だ。わかった…中河には俺から連絡しておくさ」 ――最終的にハルヒの我が侭を受け入れる。どうだ?完璧な演技だろ?アハハハハっ、よし、今日も古泉にレキソタンわけてもらおう。 以外と効くんだ。アレ。 中河にアポを取り、快く承諾してくれた中河に感謝しつつ決戦当日である。 ちなみにハルヒが借りてきたルールブックとはアイシールド●1である。 いっそ事故かなんかで死んでくんないかなあ、あいつ。 試合内容は散々たるものだった。 相手チームが原因不明の腹痛を訴え棄権したり交通事故で棄権したり実家が燃えて人数が足りないチームと戦い、とうとう決勝戦である。 彼らには悪いがこちとら世界の命運がかかっている。多少の犠牲はつきものと割り切って試合に挑もと思う。 ここでとりあえず我がチームの選手とポジションを紹介する。 まずはラインの谷口、国木田、コンピ研部長、ランの俺とハルヒ、クォーターバックの長門、なんでも屋の古泉、その他雑用の鶴屋さん、朝比奈さんに妹 そしてリードバッグ(ボール持った奴を守るポジションらしい)の経験者中河だ。 これで優勝を狙ってるんだから正気の沙汰じゃない。本当に志しなかばで散っていった方々のご冥福を祈る。 いい加減まともに試合が出来ていないことにハルヒがイライラしてきたのでこの試合は小細工無しの真っ向勝負だ。 オレ達は経験者中河の指示にしたがい順調に点差を広げられていった。 ちなみに中河の提出した作戦は「いのちをだいじに」だ。 さすがの中河もまさか女子供と混じってアメフトをするとは夢にも思わなかったのであろう。 いろんな意味でアップアップだ。 そんな時に限って古泉の携帯が鳴り、長門は空を睨み、朝比奈さんは耳を澄ましてやがる。あぁ、忌々しい…
https://w.atwiki.jp/haruhi_sm/pages/20.html
短編・涼宮ハルヒ 1
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/27.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡 翌日の朝。俺は懐かしい早朝ハイキングコースを歩いて学校へと向かっていた。 とは言っても、向こうの世界じゃ毎日のように往復していたけどな。 北高に入り、下駄箱で靴を履き替えていると、 「おっ。キョンくん。おはようっさ。今日もめがっさ元気かい?」 「キョンくん、おはようございます」 鶴屋さんの元気な声と朝からエンジェル降臨・朝比奈さんの可憐なボイスが俺を出迎えてくれた。 何か向こうの世界じゃ何度も聞いていたのに、帰ってきたという実感があるだけで凄く懐かしい気分になるのはなぜだろう? 靴を履き替え終わった頃、長門が昇降口に入ってきた。 「よう、今日も元気か?」 「問題ない」 声をかけてやったが、やっぱり帰ってきたのは最低限の言葉だけだ。ただし、全身から発しているオーラを見る限り 今日の朝は気分はそこそこみたいだな。 階段を上がっている途中で、なぜか生徒会長と共にいる古泉に遭遇する。 「やあ、これはおはようございます――どうしました? 何かいつもと雰囲気がちょっと違うように見えますが」 「朝からお前と遭遇して、せっかくの良い気分がぶちこわしになっただけだ」 「これは手厳しい」 ふと、俺はあることを思い出し、古泉と生徒会長を交互に見渡して、 「とりあえずご苦労さんとだけ言っておく」 「はい?」 俺の台詞の意味がわからず、呆然とする古泉と生徒会長を尻目に俺は自分の教室へと向かった。 そして、教室に入ってみれば、ハルヒのしかめっ面が俺をお出迎えだ。 少しはこっちの気分を読んで欲しいぞ、全く。 「遅い! せっかく良いもの見つけたから、朝ご飯食べながら学校に走ってきたのに!」 「お前の都合でどうこう言われても困るぞ」 団長様のありがたい怒声を聞きつつ、俺は自分の席に座る。 見ればハルヒは机の上にチラシを沢山並べていた。どうやら何かの催しの案内らしいな。今度は何だ。 全米川下り選手権にでも丸太に乗って参加するつもりか? 「ほら見てよ、これって凄くおもしろそうじゃない? ついでにSOS団のアピールもバッチリだわ! これは――」 意気揚々と語り始めるハルヒ。俺はそれを耳から垂れ流しつつ、ちょっとした考え事に入る。 最初に言っておくが、これは昨日の夜家に帰って風呂に入りながら考えた俺の妄想だ。 俺はずっと向こう側の世界に行って、SOS団を作り上げるまで試行錯誤しまくってきたわけだが、 実際のところ不可解な点もたくさんあるのが実情だ。 特に情報統合思念体については明らかに矛盾している点がある。連中は長門によるハルヒの力の使用は二度あって、 一度はハルヒのリセットで隠蔽、もう一つは直前で阻止したようだったが、今俺が帰ってきた世界の長門の世界改変分が カウントされていないのはなぜだ? 最初に聞かされた話じゃ、ここの連中とあっちの連中も結局は同じもののはずだからな。 そう考えれば、俺の知る限り長門による力の行使は三回あったはず。これはあきらかに矛盾している。 じゃあ、実はハルヒの勘違いで、こことあっちの連中は実は別物と言う可能性はどうだろうか? 一応パラレルワールドみたいなものだし、 その分だけ情報統合思念体が存在していてもおかしくはない。が、それはそれで矛盾がある。見たところ同じような考えを持った 存在だったことを考えれば、この世界で長門が世界改変を実施したら、同じように長門の初期化、さらにハルヒの排除という 流れになるんじゃないだろうか。向こうの連中は過剰反応しただけで済ませるにはどうにも腑に落ちない。 まあ、なんだ。前置きが長くなったが言いたいことはこういうことだ。 俺が去った後にリセットされてやり直されている世界――それが今俺のいる世界なんじゃないかってね。 つまり俺はずっとここに至るまでの軌跡をずっと描き続けてきたってことだ。 情報統合思念体にも実は俺たちとは違うが時間の流れみたいなものがあって、あの交渉の結果、 この世界では長門の世界改変がスルーされた。約束通りに。 それだといろいろつじつまの合うことも多い。 ハルヒがどうして宇宙人(長門)・未来人(朝比奈さん)・超能力者(古泉)・異世界人(俺)がいることを望んでいたのか。 それは最初からSOS団を作るために、探していたんじゃないだろうか。だからこそ、不思議なことを探してはいるものの、 全員そろっている現状に密かに満足しているのではないのか。それだと唯一いないと言われている異世界人は、俺だし。 それに…… ―――― ―――― ―――― なーんてな。考えすぎにもほどがある。本当にそうなら、今目の前にいるハルヒは自分が神的変態パワーを持っていることを 自覚していることになっちまうが、それなら最初に世界を作り替えようとしてしまったこととか、元祖エンドレスサマーとかの 説明が全くつかなくなってしまう。自覚してあんなデリケートな性格になっているんだから、あえてやるわけがない。 普段の素振りを見ても、そんな風にはとても見えないしな。自覚しているハルヒを知っている身としては。 ……ただし。 ――あんたの世界のあたしがうらやましい。何も知らずにただみんなと一緒に遊んでいられるんだから―― この言葉が少々引っかかるが。 まあ、どっちにしろ凡人たる俺にそんなことがわかるわけもない。一々確認するのも億劫だし、面倒だ。 現状のSOS団に満足しているのに、わざわざヤブを突っつく必要なんてあるまい。 俺の妄想が本当かどうかはその内わかるさ――その内な。この世界も別の神とか宇宙的勢力とか出てきて、 まだまだ騒がしい非日常が続いて行きそうな臭いがプンプンしているし。 「ちょっとキョン! ちゃんと聞いているの!?」 突然ハルヒが俺のネクタイを引っ張ってきた。やれやれ、妄想もここまでにしておくか。 俺はハルヒの手をふりほどきつつ、 「で、次はどこに連れて行ってくれるんだ?」 その問いかけにハルヒはふふんと腕を組み、実に楽しそうな100W笑顔を浮かべて、 「聞いて驚きなさい。次はね――」 ~完~ 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 涼宮ハルヒの軌跡
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4489.html
以前コンピ研からパソコンを強奪した事のあるハルヒが 今度はゲームをかっぱらってきた。 突然、立ち上がり、 「あぁっもう、退屈よ!」 と、叫ぶとともに部室をずしずしと出て行った五分後に 「待ってくれ!まだそれはインストールしていないんだ」 と言うコンピ研部長の悲痛な叫び声が上がったかと思うと 「だったら、SOS団のパソコンにインストールしなさい」 と言う、ハルヒの命令が聞こえて扉が開く。 「何で僕が」 と、言いながらハルヒの後を追ってきて中へと入ってきたコンピ研部長が聞けば、 「あたしがやりたいからに決まってるでしょ」 と、さも当然のことのようにハルヒが答えた。 まったく、その自信はどこから沸いてくるのかね 結局、ハルヒの暴力に屈し、しぶしぶゲームをインストールした部長は 「何で僕が・・・」 と、ぼやき、俺を睨んで退出した。何で俺が睨まれなきゃならんのだ。 ハルヒは満足げな笑顔で団長席に腰かけてゲームを始めた。 それから一週間、ハルヒは放課後に限らず、昼休みまでも部室で過ごすようになった。 チャイムが鳴ると同時に教室を飛び出して部室でゲームをする。 初日のハルヒの「何よこれ、小説?」 と言う感想と表情からはとても想像できない反応だ。 一体何のゲームだ? まぁ、そこまでハマりこんでも授業をサボったりしてないから文句は言えないがな。 しかし、いや、その代りにだな、ハルヒは何故か俺たちを部室から追い出すということをし始めた。 きっかけは、と言うか、一番最初にそんなことをした時、ハルヒは顔面を真っ赤にしていた。 何事かと思い近づこうとしたとき 「キョン、出て行きなさい」 と、思ったよりは冷静に命令し、俺が目で理由を尋ねた直後に 「いいから!とっとと出ていきなさい!」 と、力の限り叫ぶ。慌てて退出したが全くもって理由が分からなかった。 それからというもの、突然俺を、時にはSOS団員全員を追い出すようになった。 その度に朝比奈さんは大慌てで、長門は本を読みながら、古泉はニヤケスマイルで 部室を出る。回を増すごとにハルヒは落ち着いて命令するようになった。 最後に追い出された時は 「あー、キョン。出ていきなさい」 と、めんどくさそうに言っていた。 その時にはすっかり慣れていた俺は「やれやれ」と呟きながらのんびりと出て行くようになっていた。 「ねぇ、あんた、願いが何でも叶うとしたら何を願う?」 ハルヒがそんなことを俺に聞いてきたのはゲームに飽きたのか、 部室に飛んでいくようなことがなくなってから数日後のことだった。願いが何だって? 「だから、願い事よ。大金持ちになりたいとか、女の子にもてたいとか」 さぁね、世界平和かね 「真面目に答えなさいよ。まさか、そんなこと本気で思ってるわけ?」 まぁ、本気ではないがそうなってもいいとは思うな。 「そう言うお前は何をお願いするんだ?」 いつかの七夕を思い出しながらそんなことを聞いてみる。 「あたしは、その・・・」 このとき俺はてっきりハルヒのことだから 「もちろん決まってるじゃない!この世界の神になることよ!」 位のことは言ってのけると思っていた。が、ふたを開けてみれば、 目を泳がせて、 「いいじゃない、そんなこと」 と言ってそっぽを向いてしまうだけと言う、何とも拍子抜けな反応だった。 まぁ、とんでもない事を言い出すよりはいいけどな。 その翌日、俺は学校に到着してからようやく異変に気づいた。 「誰も、いない?」 そんな馬鹿なとは思ったが、教室にも校庭にも、よくよく考えてみれば 登校中も誰も見なかった。何だ?またハルヒの仕業か? 「おーい、誰かいないのか?」 そう叫んでみたが、返事はない。誰もいない。まさか本当に俺しかいないのか? 以前にも似たようなことはあったが、その時はハルヒもいたし、 起きたら突然そこにいた、と言う感じだった。ますますおかしい。何が起こってんだ? 「ようやく見つけたわ」 後ろからハルヒの声が聞こえた。よかった、俺だけじゃなかった。 そう思うと同時に「またハルヒと俺だけか」とも思ったが違った。 ハルヒの隣には見たこともない変な男がいた。 「キョン、サーヴァントはどこ?」 サーヴァント?何のことだ? 「とぼけないで!あんたもサーヴァントを召還したはずよ。 クラスまでは知らないけどあんたのことだからライダーとかその辺でしょ」 さっぱり意味が分からん。わかるように説明しろ 「あぁっ、もう!白々しいわね。いいわ、あんたがその気ならこっちにも考えがあるわ」 ハルヒは腕を組んでそう言うと右手を人差し指を立てて前に突き出し 「アーチャー、キョンがサーヴァントを呼ぶまで徹底的に痛めつけてやりなさい」 おいおい、マジかよ 「めんどくさい命令だな。いいぜ、やってやる」 そう言うと金色の鎧を着た男は指の関節を鳴らす。ヤバい、とにかく逃げたほうががよさそうだ。 俺はあたりを見渡し、逃げ込めそうな場所を探す。用具倉庫、あそこなら・・・ 「とりあえず、死んじまえ」 男はそう言うと剣を俺に向かって振り下ろす。俺はそれを何とかかわすことができた。 「本当に殺しちゃだめよ、アーチャー。サーヴァントが出てくるまで待ちなさい」 くそっ、ふざけるなよ。 俺は全速力で走る。教室に呼び出された時のように体が動かなくなるようなことはなかった。 「マスターも甘いな。あいつがいなけりゃわざわざサーヴァントと闘う必要もねぇのに」 倉庫まではもう少し。中に閉じこもって扉を閉めれば襲っては来れないだろう。 話はそれからだ。 「ま、俺が最強だから関係ないけどな」 そう言うのと、俺の体が吹っ飛ぶのは同時だった。 強い衝撃がぶつかったかと思うと、俺の体は倉庫の中に放り込まれていた。 幸いにもマットの上に着地したため怪我はない。俺は急いで扉を閉め、開かないようにモップを立てかけた。 一旦はこれで大丈夫か? 「おい、とっとと出て来い。出てこねぇってんなら倉庫ごと吹っ飛ばす」 倉庫ごと吹っ飛ばすだって?冗談だろ、ってか、無理だろ。 いや、ハルヒがらみだ。本当にやりかねん。 くそ、誰でもいいから助けてくれ。 朝比奈さんは無理としても、長門でも、古泉でも、この際朝倉だって何でもいい。 とにかく誰か、誰か! その時、地面が光った。今度は何だ?まさか本当に吹っ飛ぶのか? 「問おう」 聞こえたのは女性の声だった。 「あなたが私のマスターか?」 目の前には銀の鎧を身にまとった、金髪の女性がいた。 「マスター、って何だ?」 そう言えばハルヒがそう呼ばれてたな。 「あなたが私を召んだのでしょう」 女性がそう言う。俺がよんだ?何時? 俺が呆然と女性を見上げていると、コンクリートででき来た倉庫の壁に穴があいた。 「何だ、いるじゃねぇか。・・・っと、セイバーか」 セイバー?知り合いなのか? 「なるほど、いきなりずいぶんと厄介な相手に・・・」 そう言うと、女性は見えない何かを構えて、 男に飛びかかった。 「っと、相変わらずだな。やはりお前は俺にこそ相応しい」 それを受け止めた男はたやすくそれをはじき返した。 「黙りなさい、アーチャー。私はあなたのものになるつもりはありません」 「ふん、まだそう言うか。ならば」 空いた壁の穴の隙間からハルヒが駆け寄ってくるのが見えた。 その顔は女性を見て驚いているようにも見える。 「ならば、貴様のマスターごと消し飛べ!」 男の背面から無数の武器が現れる。 「くっ」 女性は再び男に向かっていく。それを男はいともたやすくかわした。 「甘いな、このまま貴様のマスターが死ねば問題ない」 マジか? 「頭の悪い貴様のサーヴァントを恨むのだな。死ね!」 「駄目、殺したらだめ!」 そう叫んだのはハルヒだった。 「・・・っ!霊呪を使っただと」 男は焦った様子でハルヒを見る。その隙を逃さず女性が切りかかった。 気がつけば、男の首が、なくなっていた。 そのままグロテクスな場面を見せられると思ったが、 倒れることなく、それは消えてしまった。何だ?これは夢なのか? 「嘘・・・」 その奥ではハルヒが膝をついて青くなっていた。 「聖杯・・・戦争?」 大泣きしながら思う存分俺を殴ったハルヒから大体の事情と聖杯戦争のことを聞いた。 冗談のつもりで、いや、ハルヒのことだから本気だったのだろうが、 降霊の儀式を行なったところ、サーヴァントを召喚してしまったらしい。 聖杯戦争については・・・まぁ、勝手に想像するか調べてくれ。俺にはついていけん。 とにかく俺は召んだ覚えのないサーヴァント、セイバーと共にその戦争に巻き込まれたらしい。 「とにかく、あたしのアーチャーがいなくなったのはあんたのせいなんだから! 責任とってあたしの願いを叶えなさい。いいわね」 相変わらずの理不尽な要求だった。 「聖杯・・・戦争?」 大泣きしながら思う存分俺を殴ったハルヒから大体の事情と聖杯戦争のことを聞いた。 冗談のつもりで、いや、ハルヒのことだから本気だったのだろうが、 降霊の儀式を行なったところ、サーヴァントを召喚してしまったらしい。 聖杯戦争については・・・まぁ、勝手に想像するか調べてくれ。俺にはついていけん。 とにかく俺は召んだ覚えのないサーヴァント、セイバーと共にその戦争に巻き込まれたらしい。 「とにかく、あたしのアーチャーがいなくなったのはあんたのせいなんだから! 責任とってあたしの願いを叶えなさい。いいわね」 相変わらずの理不尽な要求だった。 さて、ハルヒの説明が終わり、俺たちは別のサーヴァントとマスターを探すべく学校を出た。 「いい?あんたが死のうが何しようが私を守るのよ」 死なない程度に守ってやるよ。 「団員は身を呈してでも団長を守るものでしょう。 大体、あんたが殺されそうにならなきゃあたしが勝ってたの。 そのことをきちんと理解しておくこと。分かったわね」 今度は負け惜しみか? 「負け惜しみなんかじゃないの。あたしが勝ってたの」 そんな強気なことを言いながらも、ハルヒははぐれないようにしっかりと俺の服を掴んでいた。 まぁ、ハルヒでも自分が殺されるかもしれないと思えば怖いのかもしれんな。 そんなことを考えながら歩いていると突然セイバーが立ち止まった。 「マスター、気を付けてください。私たちの後ろから隠れてついてきているものがいます」 何だ、早くも敵か? 「分かりません。一人のようですが警戒するにこしたことはないでしょう」 セイバーは真剣な目つきでそう言う。 「誰かいるんならこっちから攻撃すればいいじゃない。先手必勝よ」 ハルヒらしいというかなんというか。 「いえ、先ほども言いましたが相手は一人です。迂闊に手を出してしまえばあなた方が危険です」 そんなハルヒの提案に冷静な意見が帰ってきた。 「まどろっこしいわねぇ。で?そいつはどこにいるの」 「今はひとつ前の電柱の陰です。慣れているのかかなり上手についてきます」 今度の相手はストーカーか。 「ふーん。あの電柱の陰ね」 そう言うとハルヒは立ち止まり、にわかに振り返り何かを投げつけた。 「痛いっ」 と言う聞きなれた声が聞こえる。 「古泉君」 「ははは、やはり涼宮さんには敵いませんね」 古泉は笑顔で、両手を上げてこちらにやってきた。敵意はないってか? 「警戒しないでください。僕はすでにサーヴァントを失っています」 何かを構えるセイバーに古泉が言った。 それでも警戒しているのか、セイバーは動かない。 「安心しろ。こいつはそんな奴じゃない」 「お言葉ですがマスター。そう言う人間ほど油断ならないものです」 そんなもんなのかねぇ 「ところで、涼宮さんのサーヴァントが見当たらないようですが?」 古泉が訊ねた。 「あたしは、バカキョンのせいで脱落しちゃったのよ」 ハルヒがバツの悪そうに言った。 「そうですか、では仕方ありません」 古泉は手をおろして言った。 「キョンくん。少々お話があります。こちらに来ていただけますか?」 古泉は普段と変わりない態度で言った。 「貴様っ!」 警戒を強めたセイバーが言う。俺は手でそれを制して古泉の方へ歩き出した。 古泉がそう切り出すときは何か重要なことがある時だ。 特にハルヒ絡みのな。 警戒を怠らずに進むセイバーの横に あふれんばかりの好奇心を体中に漂わせるハルヒが話しかける。 それから少し離れた後ろで古泉の話を聞いていた。 「つまり、今回マスターになってるのはSOS団のメンバーで、 サーヴァントはランダムなんだな」 「えぇ、そう言うことです」 古泉が肯定する。 「僕のサーヴァントはランサーでした。 真名をきく前に消えてしまいましたが、宝具ですぐに分かりましたよ」 古泉は肩をすくめて言った。 「武器はトライデント、そこからわかる正体はポセイドンです。 流石は涼宮さん。そんなものまで呼んでしまうとは」 ポセイドンって、海の神じゃねぇか 「えぇ、性格は少しアレでしたが・・・」 アレ?って何だ 「第一声が『やらないか』でしたよ。驚きました」 全く意味が分からん 「それでいいと思います」 古泉はそう言って笑った。何がおかしいんだよ。 「で、相手は誰だったんだ?」 「そうです。僕のサーヴァントが負けたのは、キャスターにです。 そのマスターは長門さんです」 長門か。その長門はどこにいるんだ? 「それは僕にもわかりませんが、その相手のサーヴァントに少々問題が」 問題?一体どんな? 「そのサーヴァントと言うのが、その・・・」 早く言え。気になる 「長門さん自身なんです」 長門が、サーヴァント? どうやら最大の敵はおそらく長門だな。と、俺は思った。 「そしてもう一つ、今いる場所についてです」 場所?何か罠があるのか? 「いえ、そうではありません。すでにこの街がおかしいことにはお気づきですね?」 あぁ、人っ子一人いないからな 「そうです。誰もいません。以前そのようなことを経験したことはありませんか?」 以前経験した?まさか・・・ 「そうです。ここは閉鎖空間です。いえ、正確にはよく似た空間ですね。 コンピューター研究部の部長氏宅に発生したものの方が近いかもしれません。 しかし、この空間は間違いなく涼宮さんが発生させています」 ハルヒが?なんでまた 「おそらく最近やっていらっしゃったゲームが原因ですね。 かなり強く影響を受けたのでしょう。自分自身がそのゲームの登場人物になりたかった。 そこで、この空間を発生させ、ゲームの続きを楽しんでいる、と言うことでしょう。 このゲームが終わればおそらくこの空間は消滅します。 我々も無事元の世界に帰ることができるでしょう。 逆を言えば終了するまでは帰れません。とにかく、ほかの参加者を探すしかないようです」 やれやれ、無理にでもあのゲームをやめさせればよかった。 「そうかもしれません。しかし、この空間に神人は現れません。 そのことを考えれば僕は少し楽ですね」 そういえば、お前超能力は使えるのか? 「閉鎖空間ほどではありませんが、可能です。サーヴァントを相手にして逃げきるくらいはできるはずです」 そうか、俺にはよく分からんな 「では、こう言いましょう。今力を使えばあなたを殺すことくらいは容易くできます」 何だと? 「冗談です。そんな事をすれば、いや、しようとすればその前に僕がゲームオーバーです」 相変わらずのいやな笑顔でそう言った。よし、一発殴らせろ。 駅前の広場でいったん休憩し、その時にハルヒとセイバーに長門のことを話す。 「確かに、サーヴァントがマスターになることは可能ですが、 自分自身のマスターになるというのは初耳です」 セイバーの感想だ。 「何?じゃぁ、有希って魔術師だったの?」 ハルヒ、お前は黙ってろ 「とにかく、これからどうするかを考えましょう。まずは他のサーヴァントとマスターを・・・」 「あのー、すいません」 む、この舌足らずな喋り方は 「やっと見つけました、キョンくーん」 やはり朝比奈さんだった。もう大丈夫です、朝比奈さん。だから抱きつかないでください。 胸が当たってます。いや、このままでもいいか。 「ちょっとキョン!みくるちゃんから離れなさい。今すぐに」 「マスター、危険です。早く離れて」 二人がほぼ同時にそう言った。まぁ、二人で離れろの意味が違うんだろうな。 「あ、あのあたし何が何だか・・・目の前に大きな男の人が現れて、妹ちゃんが来て、 目の前で人がいなくなって・・・」 と、言うことは朝比奈さんも脱落済みか。 「あの、それで、今あたし追われてて」 「追われてる?誰にです?」 あ、古泉、俺が言おうとしたことを 「あの、男の人と・・・」 朝比奈さんの言葉をズシン、と言う音が遮った。何だ?地震か? そう思いながらあたりを見渡すとそこには3Mもあろうかと言う巨人がいた。 「こ、この人です」 このサイズなら間違いなく人じゃない。サーヴァントだな。 セイバーは大男の前に立ち、戦闘態勢をとる。 「マスター、いったん引きます。今のままで倒せる相手ではありません」 何、そんなに強いのか 「バーサーカーよ!間違いないわ。分かったらとっと逃げる」 ハルヒは俺のネクタイをつかむと走り出した。おい、そんなに引っ張るな。 古泉は男らしく朝比奈さんをかばいながら進んでいる。それは俺の役目だろ。 セイバーは俺たちが逃げ始めてからも大男を相手にしていた。 全力で走り、息を切らして立ち止まった。 「だらしないわね!それでもSOS団なの?」 ネクタイで途中首を絞めたのは誰だ 「古泉君たちともはぐれちゃったし、どうすんのよ?」 どうするたってなぁ いろいろと考えてみるが何も思いつかない。いや、それより・・・ 「セイバーとはぐれちまったし、今誰かに会うのはまずいな」 「どういう・・・」 途中で俺の言いたいことに気づいたらしい。不安そうな表情になっていた。 「大丈夫よ。もしもの時は霊呪使えば何とかなるし」 霊呪? 「さっき説明したでしょ。サーヴァントに命令を強制するためのものよ。 あんたの左手についてるのがそれ」 言われてから見てみれば確かに見たこともない模様が刻まれていた。 「使えるのは三回。それがなくなったらサーヴァントもどっかに行っちゃうから気をつけて、慎重に使うのよ」 三回か。少ないな 「だから、変なタイミングで使わないの、いいわね」 ハルヒはきつく俺にそう言うと歩き出した。 「おい、むやみに歩かない方がいいんじゃないか?」 「こう言うときは行動あるのみって言うでしょ」 そう言うと勝手にどかどかと歩き始める。全く、本当に大丈夫か? そんな心配は的中する。ハルヒが角を曲がった瞬間だった。 「キャァーッ!」 ハルヒが悲鳴を上げて尻もちをつく。くそっ、言ったそばから 「セイバー!」 俺は左手に力をこめて名前を呼んだ。腕が焼けるように熱い。 模様の一部が消えると同時にセイバーが目の前に現れた。 「ハルヒ!大丈夫か」 急いでハルヒに駆け寄る。ハルヒが見つめる方向を見るとそこにいたのは ハルヒと同じように尻もちをついた朝比奈さんとそれを助けようとしている古泉だった。 ・・・おい、まさか 「マスター、何事です?」 緊張した面持ちでセイバーがあたりを睨んでいる。マズイ、言いづらいぞ。 「キョン、あんた・・・」 ハルヒが俺をにらむ。いや、言いたいことはわかるが俺はお前を助けようとだな 「あれほど慎重に使えって言ったでしょう!バカ!」 セイバーは状況が掴めないのか首をひねっている。朝比奈さんは 「ごめんなさい、ごめんなさい」と、何度も繰り返し、その後ろで古泉が笑っている。 さて、何と言ったものかと俺は頭をかいていた。 「なぁ、だからそんなに怒るなって。仕方ないだろう、急だったんだから」 なだめる俺をハルヒはそっぽを向いて無視する。 「マスター、ハルヒの言うことは間違ってません。あまりにも軽率です」 それをセイバーがさらに攻撃する。何だよ、そんなに俺が悪いか? 「まぁまぁ、彼も反省しているようですし、そのくらいにしてあげては?」 古泉、お前は俺に喧嘩を売ってるんだな 「キョン君のせいじゃありません。あたしが悪いんです。あたしが驚かせたばっかりに」 いえいえ、あなたのせいになるくらいなら喜んで自分が悪いと認めますよ。 「と・に・か・く」 ムッツリ顔のままハルヒが口を開いた。 「今はバーサーカーの対策を立てましょ」 その話を遅らせたのはハルヒ、お前がいつまでもすねているからだ。 「では、そのことについては私が」 セイバーが意見を述べる。 「まず、バーサーカーは不死身です。前回の聖杯戦争で戦ったのですが、 彼は七回殺さなければ死にません。 ですから、正面から戦いを挑んでも勝ち目はないでしょう。」 まさに化け物だな。 「そこで、この街を利用して戦います。 見たところ道は複雑に入り組んでいて、隠れる場所もたくさんあります。 民家に多少の被害は出てしまうでしょうが、 何故か誰もいないようなのでおそらく問題はないでしょう」 要はゲリラ戦を仕掛けるってことか 「そう言うことです。この作戦を成功させるためには誰かおとり役がいた方が楽なのですが・・・」 俺はそれを聞いて古泉を見た。古泉は俺を見るとウィンクをした。気持ち悪い。 「スミマセン、そのことなのですが」 やはり古泉がおとり役か 「僕にもっと素敵な提案があります」 あ?何だって? 古泉の進言どおりにやってきたのは学校だった。 「もうすぐバーサーカーもやってくるはずです」 古泉が言う。その通りになった。大男は校庭のど真ん中であたりを見渡している。 その腕には誰かが乗っていた。 「あれって・・・妹ちゃんじゃない?」 そうだ、俺の妹だ。あいつ、あんなところで何を 「どうやら彼女がマスターのようですね」 何だって? 「つまりは、そう言うことでしょう」 妹は腕から飛び降りると 「ここにいるのはわかってるの、早く出てきてよ、お兄ちゃん」 残念だがお断りだ。 「早く出てきて、お兄ちゃん」 その叫び声に呼ばれて出てきたのは俺たちではなく長門だった。 「あ、有希っ子だ。ねぇ?お兄ちゃん知らない」 「知らない」 長門は何故か文化祭の魔女っ子の服を着ていたが、とりあえずは作戦通りだ。 「ふーん、まぁいっか。有希っ子襲ってら出てきてくれるかな」 おい、妹よ。お前はいつからそんな恐ろしいことを考えるようになったんだ。 「やっちゃえ!バーサーカー」 大男が吠える。おいおい、大丈夫か? 古泉の作戦は次のようなものだった。 まず、バーサーカーをキャスターの、つまりは長門の前に誘きだし遭遇させる。 長門がサーヴァントだと分かればバーサーカーは当然闘うだろう。 もしここで、妹がバーサーカーを止めて長門が勝利すればそれでよし。 止めずに戦い、どちらかが消耗してくれれば万々歳。と言うものだった。 「で?肝心の長門はどこにいるんだ?」 俺の質問に対して古泉は 「心当たりがあります。もし、彼女が移動をしていなければの話ですが」 それが学校だった。つまり古泉は俺たちが戦っていた時に長門と闘い、 ハルヒ同様サーバントを失ったのだ。 だから、あの時セイバーが俺のサーヴァントってことを知ってたんだな。 かくして、俺たちは校庭の隅に隠れて様子を見ているのであった。 バーサーカーが長門にきりかかる。その手に握られた剣は、 一件小さく見えるがそれはバーサーカーの大きさ故であり、実際はかなり巨大だ。 校庭には巨大なクレーターができていた。 長門はそれを想像できないほど華麗な動きでかわすと手のひらを突き出した。 「サーヴァント・ヘラクレスを敵性と判断。情報結合の解除を開始」 そう言うと何かを早口で唱える。まさに魔術師だ。中身は宇宙人だが。 「バーサーカー、何してるの?」 突然動きを止めたバーサーカーに妹が不安そうな表情を浮かべた。 「終わった」 長門がそう言うと、バーサーカーはそのまま消滅を始める。 「そんな馬鹿な・・・」 セイバーが驚いた様子で、その光景を見ていた。あぁ、ありゃチートだよ。 昔、実は俺は一回刺されただけで死ぬぞー、と言った不死身キャラがいたがあれよりひどいな。 「ウォぉォォぉォぉ」 最後のあがきとばかりにバーサーカーが叫ぶ。同時に長門に向って剣を振りおろしていた。 グシャリ。バーサーカーも呆気なかったが、キャスターも呆気なかった。 これで聖杯戦争は終わりか。 思いがけない展開に誰もが呆然としていた。俺は隠れていた場所から出て妹のもとに向かった。 妹は泣きそうな顔をしていた。 「バーサーカーが、死んじゃった」 「大丈夫だ。俺が守ってやる」 俺は妹を軽く抱きしめた。緊張の糸が解けたのか妹はわんわんと泣き出してしまった。 「一件落着ですね」 古泉がそう言った。あぁ、そうだ、終わったんだ。 「で?どうすれば元の世界に戻れるんだ?」 「おそらくは聖杯に願いを叶えてもらうことが条件でしょう。 原作では、聖杯が願いを叶えてくれることはありませんでしたが、 涼宮さんのことです。きっと叶えてくれることになっているのでしょう」 「お前、原作を知ってるのか?」 「えぇ、涼宮さんがずいぶん熱心にゲームをされていたので念のため調べておきました」 流石古泉だな。まさかこいつ、四六時中ハルヒを見てるんじゃないか? 「妹ちゃん、大丈夫?」 ハルヒと朝比奈さん、遅れてセイバーが駆け付ける。セイバーは何かを探すかのようにあたりを見回している。 「ハルにゃん・・・怖かったぁ」 俺を押しのけて妹はハルヒに抱きつく。冷たいな、おい。 ハルヒは妹をやさしく抱きしめて落ち着かせていた。 「で、古泉。聖杯は何所にあるんだ?」 「分かりません。ただ、おそらく涼宮さんがそれを知っているかと・・・」 「いや、彼女は知らない。聖杯は涼宮ハルヒ自身」 古泉の代わりに質問に答えた。が、全員がそれを聞いて血の気が引いた。 答えの内容にではない、その声にだ。あり得ないとだれもが思っただろう。 「嘘・・・」 どちらについてなのかは分からなかったが、ハルヒが言った。 「嘘ではない。事実」 回答を返したのは紛れもなく制服姿の長門だった。 「長門、お前・・・」 そのあとに言葉を続けられない。おい、長門はさっき潰されたんじゃなかったのか? 「潰されたのはサーヴァントとしての私」 どういうことだ? 「私はマスターとしてサーヴァントである私を召還した」 「なるほど、そう言うことなら」 納得したが、それでいいのか?セイバー。 「それより、涼宮さんが聖杯と言うのはどういうことです?」 古泉が流れをぶった切って質問した。 「涼宮ハルヒの力と聖杯の性質は酷似している。 だから彼女が聖杯である可能性が高い」 だったらどうすりゃいいんだよ。 「聖杯戦争の勝者が涼宮ハルヒに触れて願えば終わり」 それじゃぁ、俺がハルヒに願いを叶えてもらえばいいんだな? 「違う。願いをかなえるのは私」 何だって?お前、サーヴァントを失ったはずじゃ・・・ 「問題ない。サーヴァントは私。そして、マスターも私」 そう言うと、長門はもう一人の長門が潰された場所へ歩く。何をする気だ? 「私はマスターでありサーヴァント」 「私はサーヴァントでありマスター」 気がつくと長門は二人になっていた。 「待ちなさい、有希。あなたの願いは何なの?」 ハルヒが長門に言った。長門は、どちらも無表情のままだ。 「あなたには、言えない」 長門が構えるのと、セイバーが飛び出すのは同時だった。 遅れて古泉が光の球を作り出す。 「ふんもっふ」 それを二人の長門は容易くよけた。 「一人目!」 高く跳びあがった長門の一人にセイバーが切りかかる。 長門は何か早口で呪文を唱えるとセイバーの何かを受け止めた。 「っく!?エクスカリバーが、折れた?そんな馬鹿な」 「折ったのではなく、消した。その武器は非常に厄介」 愕然とするセイバーに、長門が淡々と答える。 「セイバー!右よ!」 ハルヒがセイバーに叫んで知らせる。次の瞬間にはセイバーは吹き飛ばされていた。 「キョンくん、伏せて!」 古泉の声がしたかと思えば頭の上を何かがかすめる。古泉の攻撃だ。 「キョンくーん!私は何をすればいいんですかぁ」 朝比奈さん、あなたは妹を連れて安全な所へ。どう考えても場違いです。 「キョン、セイバーが」 ハルヒに言われてセイバーを探す。セイバーは咳きこみながら片膝をついていた。 マズイ、非常にマズイぞ。 どうしたものかを考えていると小泉の叫び声が聞こえた。 「涼宮さん!危ない!」 今度はハルヒがターゲットか? 「くそっ」 俺はハルヒに飛びかかる。空中で伸びた背中の上を何かが通り過ぎた。 そのままハルヒの上に覆いかぶさるような状況になる。 こんな状況じゃなきゃ万々歳だ。 「キョン!こんな時に何のつもり?ふざけないで」 大真面目だよ、俺は 「涼宮ハルヒ」 長門が無機質に名前を呼んだ。 「あなたはズルイ」 ・・・何だって? 「あなたはいつも誰かが守ってくれる。信じてくれる」 長門、様子がおかしくないか? 「私は仲間にしようとした古泉一樹に全力で逃げられ、 事情も聞いてもらえず、その上作戦と言う名目で利用され、 ならばと、勝負を挑めばその他全員に攻撃される」 ・・・長門? 「あなたは彼を殺しかけたにもかかわらず、仲間として迎えられ、 その上、古泉一樹や朝比奈みくる、彼の妹までも手中に収めた。 とても不公平」 言われてみれば確かに・・・ 「えぇっと」 ハルヒが何か思案するような顔で口を開く 「確かに、有希は悪くないわね」 「だから、私は・・・」 長門の表情が見たこともないほど険しくなる。 おい、いつものポーカーフェイスはどうした? 「あなたを殺す」 マジかよ。いくらなんでもそれは無いぞ。 そんなことを言う暇もなく、長門がハルヒに向かってやってきた。 「うぉぉぉぉぉっ!」 それを息絶え絶えのセイバーがなんとか防いだ。 「ふんもっふ」 古泉がそれを援護するため長門を攻撃する。 さっきの長門の話の後だと、何か罪悪感があるな。 長門は古泉の攻撃をひらりと交わし、着地する。 「これで終わり」 何だ、次は何が来る? 「あっれ~、霊呪なくなっちゃったぁ」 全員が緊張の面持ちで長門を見つめる中、そんな気の抜けた声が聞こえた。 「あはは、有希っ子めがっさ強いからかてるかなぁ~、と思ったのになぁ」 そんなことを言いながら唐突に茂みから緑髪の女生徒が現れる。 鶴屋さん?一体どういうことですか? 「あはは、有希っ子から事情聞いて、あたしがマスターとして契約したんさ。 こけおどしのつもりで有希っ子にいろいろさせたらそれで霊呪なくなちゃった」 ・・・はい? 「あー、面白かったよ、ハルにゃん。さ、ささっと願いを叶えたまえキョンくん」 愉快そうに笑う鶴屋さん以外は全員鳩が豆鉄砲を食らったようになっている。 ハルヒ、セイバー、さらには朝比奈さんまでもが明らかに怒りをあらわにし、 鶴屋さんを睨んでいた。 「ええぇっと、やっぱ怒ってる」 鶴屋さん、ある意味当然です。 俺は飛びかからんとするハルヒの肩に手を乗せて願った。 『さっさと俺たちを元の世界に戻してくれ』 白い光に包まれる中見えたのは、鶴屋さんに馬乗りになって殴りかかる朝比奈さんの姿と 「ちょっと、何か忘れてない?」 と言って、慌てた様子で話しかける二人組の姿だった。 さて、元の世界に戻ってからの話をしよう。 まず、ハルヒはあの一件を夢だと思ったらしい。 自分とアーチャー(真名はギルガメッシュと言うらしい)が俺たちのサーヴァントを けちょんけちょんにしたと言う武勇伝を自慢げに話し、古泉を苦笑させていた。 朝比奈さんは、最後に見た姿が間違いだったのかと言うほど鶴屋さんと仲良く話している。 時折、鶴屋さんがおびえたような表情になるのは俺の気のせいだ。 長門はいつもの無表情でハードカバーを読んでいる。 あれはやっぱり鶴屋さんにやらされていた演技だったんだな。 古泉は相変わらずの笑顔でハルヒの話にあいづちをうっていた。 俺がその役をやるはめにならずにすんでよかったよ。 俺はため息をついて朝比奈さんの入れたお茶をすする。もう二度とあんなことはご免だな。 「ところで、少々気になりませんか?」 ハルヒからようやく解放された古泉が俺に話しかけてきた。 「長門さんの願い、ですよ」 長門の? 「えぇ、そうです。体裁上、鶴屋さんの命令で言ったことになっていますが、 もし、本当に彼女に何かしらの願望があるとすればそれは興味深いことです」 あぁ、そうか。勝手に妄想してろ 「あなたは興味がありませんか。あなたなら何か答えてくれると思ったのですが・・・」 残念そうに肩をすくめると、古泉は詰め碁を始めた。やれやれ しかし、長門の願望か・・・。気にならなくはないな。 ぼんやりと考えながら長門を見る。 窓際で分厚い本を読む長門の表情はいつになく満足げに見えた。 柊 ~舞台裏~ ねぇ、アサシン。ひどいと思わない? 最後の最後で長門有希と涼宮さんの彼をしとめようと思ったら出番なしのまま終了よ? しかも、誰も私たちの存在に気付かないまま。 そもそも、後半部分なんてぐだぐだもいいところじゃない。 夢だと思った涼宮さんはそれでいいんでしょうけど、これはSSよ? 期待して読んでくれてた住人さんに悪いと思わなかったわけ? しかも、初めから出すつもりはなかったみたいな流れだし。 いつからあたしは空気キャラになったの?空気は谷口で十分よ! ・・・え?国木田?誰それw まったく、次こんな扱いだったら許さないわよ。 あなたも何か言いなさいよアサシン。アサシン?聞いてるの? あー、もう。しょせんあたしはバックアップなんだろうけど、 バックアップとしての仕事すらないじゃない。 無能な上司のいやだけど、有能すぎる上司はもっといや! いいから出番をよこしない!何?扱いづらいですって? さっさと消失読みなさいよ!そもそも原作チェックせずに SS書くなんてあなた一体何を考えてるの?反省しなさい! 何?あと三行?この行含めて? 嘘、ちょっと待ちなさい!セット片づけないで! あーもう!覚えてなさいよ 語り手:朝倉涼子+空気 fin